こんにちは、美術検定協会です。前回に引き続き今回も、この度美術検定1級に合格された方へ、美術検定への取り組みと今後の抱負についてお話を伺いました。今回は、社会風刺コントグループ「ザ・ニュースペーパー」でのアベ元首相やイシバ元大臣等のモノマネをはじめ、自身も政治の風刺画制作を手がける福本ヒデさんです。
―この度は美術検定1級合格おめでとうございます。ご自身のYouTubeチャンネル 「福本ヒデ美術館」でもその喜びを語っていらっしゃいましたが、本当に嬉しかったその思いが伝わりました。
ありがとうございます!いやほんとに、YouTubeでもしつこいほどお話ししましたが(笑)、美術検定1級合格は2021年で一番嬉しい出来事でした。実は1級受験に何度もトライしていたのですが、何度も受験したことはうやむやにしていました(笑)。美術講座などで講師をやらせていただいている立場上、1級を何度も落ちているというのは受講生の方に申し訳ないことですし、正直恥ずかしい気持ちもありました。今回受かっていなかったら、何回も落ちていたことは公表しなかったと思います(笑)。やっと合格したので、そうしたことも言っていいかなと思って。
―1級の合格率を考えると(合格率は平均20%前後)、福本さんが何度もチャレンジして1級を取得されたことは、受験者の方々にとっては励みになると思います。
そうですか、でも受験される方が「ああ、福本ヒデも何度もチャレンジして受かったんだ。じゃあ自分もがんばろうかな」と、励みになっていたら嬉しいですね。
―福本さんは、すでにイベントや講座などでアートをナビゲートする活動をされていらっしゃいますが、お忙しい中で何度も1級にチャレンジされた理由はなんでしょうか。
美術検定2級を取得してから、会話の中で美術検定の話になった時に「次は1級ですね」と言われますし、やっぱり2級で満足してしまうのはだめだな、と思ったんですね。実際、「美術検定」事務局(現・美術検定協会)から依頼を受けて関連イベントを始めた年でしたかね、その時は試験日と公演が重なって受験できなくて。次の年に初めて1級受けたのかな、その時はたしか合格点に5点足りず(苦笑)。事務局の方が“忖度”してくれるかと期待したんですが(笑)、まあ政治とは違いますね。
書籍『永田町絵画館』を刊行した時も、著者プロフィールに「美術検定1級合格=アートナビゲーター」って書きたいなあって思っていたのですが、その後なかなか合格しなくて大変でした。2021年の昨年50歳になった時に、本当は50歳までに1級合格と思っていたのですが、こうなったら55歳、いや60歳になってもチャレンジしようと気持ちを切り替えて取り組みました。それがよかったんですかね。
―2020年から美術検定はオンライン化しましたが、取り組み方に変化はありましたか?
2021年は、本試験日の11月13、14日のうち13日が公演日だったんですね。オンライン化してからの1級問題は、事前に記述問題の出題テーマは公表されますが、解答の字数など記述条件は試験日でないと公開されなくて。ちょうどリハーサル前に時間があったので、その字数を早く知りたかったこともあり、先に選択問題だけ解いておこうと解き始めたら(※1級オンライン試験では、選択問題解答の後に記述問題の詳細内容が閲覧できる)、問題数と試験時間が2020年と変わっていたという(汗)。せめてリハーサルが終わってから解けばよかった、とばたばたしながら選択問題を解きましたね。その次の日は公演もなかったので、じっくり記述問題に取り組みました。
オンライン化するまでの会場試験では事前の出題テーマの公開はなかったですし、90分という時間制限がありましたが(※会場試験では選択問題+記述問題で90分)、事前にテーマが公開されるということは、時間に余裕をもって調べたり記述できるという点でも、高度な解答を要求されるということなのだろうと思いました。時間がある分楽かと思っていたのですが、これがぜんせん楽じゃなくて、提出締切ぎりぎりまであれこれ悩みました。いやあ、大学の卒業論文よりも頑張りましたね(笑)。
―今回1級受験に向けて、今までとは違った対策を取られたのでしょうか。
そういえば学生時代に論文の書き方をきちんと学んでこなかったなと思い、今回は小論文の書き方をしっかり勉強しました。インターネットで「小論文の書き方」を検索し、まずは「小論文と作文の違い」という基本的なことから学び直しました。また、小論文が得意な知人に不合格だった時の答案を見せて、アドバイスをもらったりもしました。
あとインターネットのニュースで、美術館やアート関連の情報を積極的に収集していました。政治のニュースは仕事柄必ずチェックしますが、美術のことも自分に興味のない内容でも日々何かしらニュースがあるので、そういう情報もチェックしていました。テキストだけでなく時事的なニュースを読むことも、解答に役立ちましたね。
今回の記述問題の出題内容はすごく具体的だったので(※2021年1級記述問題は美術検定HPでもご確認いただけます)、シミュレーションを立てて記述しました。事例を挙げるだけでなく、「自分だったらどのように企画運営するか」と本気で考えました。試験が終わった今でも、この企画をA市立美術館でやらなきゃな、ってどこかで考えていますね(笑)。
今回思ったのは、やみくもに勉強するのではなく、きちんと小論文の書き方を学んだり、常日頃、美術について考えていることやその世界で自分ができることを伝えるために、きちんと文章にまとめていく行為って大事だということでした。1級の記述問題を通して、これから美術にかかわっていきたいと思った時に、今回の解答は自分自身のひとつの目標になりましたね。今回解答したことを実行したいなと。ただ知識を積み上げるだけでなく、美術の世界でどんな活動ができるかとか、やりたいことが膨らんできました。そういう意味でも、1級へのチャレンジは充実感がありましたね。登り始めた山を途中でそのままにはしたくないから、受験し続けていたのだろうと思います。今回だめでも来年またチャレンジ、という気持ちで取り組んでいましたが、でも、ああだめだなあー、いい加減受かりたいなあー、という気持ちも正直ありました(笑)。
他の検定もいくつか受けているのですが、テキストを読み込んだり講習をきちんと受ければ受かる検定もある中で、美術検定は、特に1級はテキストや講座だけでは受からないハードルの高さがいいですよね。4級は本当に楽しく、知らなかった作品がわかる嬉しさがあって、ちょっと勉強すればほぼ100点とれますしね。3級もなんとかがんばれば合格点に達しますが、2級は急に出題範囲も広くなって、この2級の壁を乗り越えるのが課題かと。で、1級になると記述問題も加わって、考え方をがらりと変えなくてはいけないという。挑む人にとってはやりがいのある試験です。
―あらためて、これからアートナビゲーターとしてやってみたいことはありますか?
SNSで美術検定受けている人のハッシュタグとか見ていたのですが、お互い苦労して一緒にがんばった人や、これから受けようかなと思う人とつながっていきたいですね。自分も、もともとはコントのネタ作りのために手にとった書籍が美術検定のテキストだった、というところから美術の勉強を始めましたからね。この世界にお招きしたいです。
また、美術は知識があった方がぐっと楽しくなるので、もっと楽しくわかりやすく伝えていきたいですね。美術って、最初でつまずいてしまうとそこで興味が尽きてしまいますからね。現在美術アカデミー&スクールやArt Vivageで開講している美術講座なども続けていきますが、やっぱり自分は日頃舞台に立っているので、例えばステージに大画面で作品を映し出してトークライブ、といったことを劇場でやりたいですね。劇場は暗転になって、ステージにスポットライトがあたるといった演出ができますよね。そうすると(観客の)目線が舞台に集中して、また違った作品の楽しさを提供できるかなと。
普段は政治やニュースをネタにコントやっているので、美術の知識というよりは作家のエピソードなど、例えばゴッホになりきって「なんで死んでから売れるんだよ」とぼやくとか(笑)、ニュースをアートに変えて舞台でコントなどもやってみたいですね。
―お忙しいところありがとうございました。美術と共にまた新たなステージに向かう福本さんの、これからますますのご活躍を楽しみにしています!
※福本さんの活動最新情報はTwitterでチェックできます → https://twitter.com/fukuhide0714
取材・文/高橋紀子(美術検定協会・編集チーム)
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