1 出題のねらい
「美術検定」の1級では、2020年度以来、今日的なアートを巡る状況をテーマに、1200字程度の論述問題を出題しています。このような問題に対して、どのような対策が考えられるのでしょうか。この質問に明確な答えはありませんが、ここでは受験をお考えのみなさまにヒントとなりそうな事柄をお話します。
まずは「美術検定」1級問題の出題意図の説明から始めましょう。
1級問題は、受験生のみなさまが「アートナビゲーター」として活躍するために必要な力を測ることを目的に実施しているものです。本検定の監修では、以下2つの力を重視しています。
① 美術に関する広い知識・情報をもとに、美術作品や美術を巡る動向について自分で解釈・思考ができる
② 他者に対して、より深い作品理解へ導くための、独自の視点を持った創造的で具体的なナビゲート方法や手段を考えることができる
上記の力を測るため、現時点での最適解として選んでいる出題方法が論述問題です。また、現在の世情やアートの状況を踏まえて、監修陣の知恵を総動員して“正解がない”テーマを設定するよう努めています。その評価については、毎年度ごとに、いくつかの観点を設定したうえで出題しているのです。例えば、2023年度の観点は下記の3つを設定しました。
■評価の観点例 2023年度の場合
(1) 創造性やオリジナリティ
(2) 自分の経験や深い知識に基づいた具体性・客観性
(3) 論理的構成力
ちなみに(3)の論理的構成力には、他者とのコミュニケーション力も含まれています。アートナビゲーターが「他者に伝えるひと」であることから、この観点は毎年度の評価観点となっているのです。この観点で問われているのは、文章力ではありません。ほかの人に、自分なりの考えをきちんと伝えるための文章の構成を考えているか、やわかりやすい言葉を選んで説明しようとしているか、といった点です。
2 1級の論述とは?
現行の1級論述問題は、設問に対して1200文字程度の「小論文」で応答する問題とお伝えすると分かりやすいかもしれません。論述問題は、1級受験者に対して出題テーマが事前(例年1週間程度前)に開示されるので、テーマについて調べたり、自分の考えをまとめたりする時間が用意されています。
小論文の書き方のポイントとしては、Webで「小論文の構成」「小論文の書き方」を検索すると、詳しく説明したサイトがたくさん見つかります。書かれている内容に多少の違いはあるものの、小論文の構成そのものは、ほぼ以下の3パートに分かれます。
■小論文の構成
序論…設問の意図を自分なりに汲み取り
・問題提起を行う・提起に沿った意見表明する
・結論の提示する
↓
本論…結論に沿った意見の提示、意見を裏付ける理由や根拠の提示する
(反論含む)
↓
結論…文章全体をまとめる
設問によって、「具体例を挙げて説明すること」「自分の経験を元に記述すること」などの条件が付く場合があります。条件は必ず満たすよう文章を構成するよう努めましょう。とくに「美術検定」の場合、条件が評価の観点と結びついています。
※「美術検定」では、2023年度より[評価の観点]を1級受験者に対して検定日当日に設問とともに開示することになりました。
3 1級問題に備えるには?
1級の小論文対策には、まずはアンテナを張ってアートニュースと社会の動きについて知見を重ね、それらの事象について自分の疑問や考えをまとめる習慣をつけることから始めるのはおすすめです。あるいは、昨今のアートを巡る動きに注目し、疑問を持ったことについて考えを巡らせるのもよいでしょう。
どちらの場合も、「どんな事象なのか/疑問に感じたことは何か」「それについて考えたこと」「その考えの根拠」についてポイントをメモにする練習が効果的です。というのも、論文を書く際はいきなり書き始めるのではありません。設問を理解し、構成を考え、書き出す、という手順を踏むことにより、論理的な文章を組み立てることができるのです。
文章全体の構成を考えるときに活躍するのが、ポイントを書き出したメモです。自分で提起したテーマや問題について、メモを元に各ポイントでは具体的に何を書いていくのかを箇条書きにまとめておけば、構成ができ上がります。また、設問の条件中にある文字数(美術検定の場合は、1200文字程度が多い)を大まかに振り分けておけば、書き出しがスムーズになります。文字数の増減もどのパートに手を入れたらよいかの目安にもなります。
受験者のみなさんは、アートをみるのが好きな方も多いことでしょう。小論文を書くことは、実は美術鑑賞のある方法と重なるところがあるのはご存知ですか?
それは、「この作品は何を表現しているのだろう?(問題提起)」→「私はこのように考える(自分の考え)」→「作品に描かれたこの描写が◯◯だと解釈できるから(考えの根拠)」といったように作品をみていく、分析的な鑑賞方法です。小論文を書くときにこの鑑賞方法を思い出すと、少し気が楽になるかもしれません。
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