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アートナビゲーター・美術館コレクションレポート「東山魁夷館」

皆さんこんにちは。アートナビゲーターの「ラシャーヌの父様」です。今回は、長野県信濃美術館に隣接する東山魁夷館を紹介します。東山魁夷館は善光寺のすぐ隣にあり、皆様にはぜひ足を伸ばしていただきたいと思い、ほぼ毎月訪問している私より紹介させていただきます。



1.“かいいさいかい” 

 東山魁夷館が昨年の2019年10月5日、2年半ぶりにリニューアルオープンした時のチラシのフレーズです。東山魁夷に再会、東山魁夷館が再開するという意味でしょうか。

 現在は、「東山魁夷館リニューアルオープン記念展 第Ⅲ期」が4月7日まで開催されています。今年は花の便りが早そうなので、桜の満開の頃まで展覧会が楽しめそうです。




豊田市美術館と同じく建築家・谷口吉生による設計


2.東山魁夷館について

 東山魁夷館は、1990年4月に長野県信濃美術館に併設して長野市に開館しました。正式名称は、「長野県信濃美術館 東山魁夷館」です。東山魁夷館に電話をすると「信濃美術館です」と出るので、「しまった、電話番号を間違えた」と思ってしまいますが大丈夫です、そこは東山魁夷館でもあるのです。

 その長野県信濃美術館ですが、こちらは2018年8月から解体工事が始まり、現在休館中です。2021年4月の善光寺御開帳の頃、新美術館として誕生の予定です。






     長野県信濃美術館 東山魁夷館は善光寺に隣接する公園内に位置する


 

東山魁夷館は、その名の通り日本画家・東山魁夷の作品を所蔵する美術館です。本制作34点、≪白い馬の見える風景≫シリーズが全18点のうち9点(準備作を含めると15点)、唐招提寺障壁画等の試作7点、さらに習作・下図を含めて970点の作品を所蔵する、世界最大の東山魁夷コレクション!(入場チケットに“!”付きで書いてありましたので間違いないと思います)です。特に習作・下図が多いのが非常に魅力的です。≪白い馬の見える風景≫の習作は、本制作と違い、何となく自由さが感じられます。私のような素人には完成品にさえ見えます。本制作と並べて展示されている下図もあり、比較するのも楽しいです。


3.魁夷と信州

 そもそも横浜に生まれ、神戸で育ち、長野県には縁のなさそうに見える東山魁夷ですが、なぜ長野に美術館が?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 東山魁夷が東京美術学校1年生だった時、木曽川沿いにテントを背負って徒歩旅行をした時のこと。旅行2日目に大雨と雷鳴に遭遇し、日も暮れる中で「泊めてください」とお願いした農家の老婆に、気持ち良く迎え入れてもらったそうです。そして雨も上がり、老婆に案内された公園は、簡素ながら月夜に照らされ素晴らしかった、というエピソードがあります。その経験が東山魁夷に大きな影響を与え、信濃路の自然を描くことが多くなったとのことです。そして、東京美術学校1年生の時の出来事からおよそ60年後に、「私の作品を育ててくれた故郷」と作家自身が呼んだこの長野県に作品が寄贈され、東山魁夷館が開設されました。


4.お勧めの作品

 私が特に観ていただきたい作品を5点紹介させていただきます。


(1)≪15歳の自画像≫

 洋画家を目指していた頃の東山魁夷が自力で学んだ油絵で描いた自画像です。生き生きとした楽しげな顔が印象的です。“絵を描くのが大好きな”少年の思いが伝わってきます。父から洋画家になることを大反対された東山魁夷は、その後日本画の道へ進んでいきましたので、ある意味貴重な1枚です。


(2)≪綿雲(習作)≫

 ≪白い馬の見える風景≫シリーズの最後の作品です。魁夷自身の題詞には、「再び春は巡ろうとしている。再びあなたは帰らないであろう」とあります。丘、水辺、高原、森を走った白馬が最後に雲に溶け込んで行くようです。手の届かない所を走る白馬は誰なのか、どこに行こうとしているのか、題詞とともに気になります。


(3)≪朝明けの潮≫

  2016年に2回に分けて特別展示された2枚の下図です。下図といっても本制作並の大作です。私はこの2016年の展示でしか観たことがありません。当館だからこそ所蔵している作品と思います。展示された際は三段程度の踏み台が用意され、そこに乗って床に広げられた全体像を観ました。迫力と細やかさが今も記憶に残っています。ぜひ再登場していただき、多くの人に観ていただきたい作品です。


(4)≪たにま≫

※こちらで作品画像が見られます → http://www.npsam.com/about/statistics

 スケッチ5枚、大下図3枚、小下図とありますが、本制作は東京国立近代美術館にあります。完成に至るまでの経緯が興味深く、実際の川が段々と簡素化・デザイン化されて行く様子がよく分かります。「東山魁夷は日本画の抽象画家でもあったのかも」と考えてしまう作品はいくつかありますが、この作品群はその中でも説得力を感じます。


(5)≪木枯らし舞う≫

 制作当時89歳ですが、年齢を全く感じさせないことに驚かされます。東山魁夷館のキャプションと出品目録には制作年齢が表示されていますが、80歳以上の作品が多いことが分ります。そしてその年齢を見るたびに、自分の母の年齢と重ね合わせてしまいます。そんな思いで観ると、木枯らしの中に輝く道が、観た人をどこかに連れて行ってくれる様な気がして、懐かしく感じる一方で哀しくも感じられます。


 2018年秋に、国立新美術館で「生誕110年 東山魁夷展」が開催されました。その最終章の「心を写す風景画」のコーナーに展示された11作品のうち10点が、東山魁夷館所蔵のものでした。そして、≪木枯らし舞う≫と≪夕星≫(絶筆)が最後の展示作品だったのが印象的でした。


 1階のラウンジから外を見ると、ここが緑と水に囲まれたことが実感できます。さらに遠くには、東山魁夷が眠る山の中腹が見えます。朝は9時から開館していますので、ここで落ち着いた時間を過ごして一日を始めるのもお勧めです。



          1階ラウンジからの眺め



東山魁夷の作品と共に、静かに落ち着いた時間を過ごせる東山魁夷館。長野にお越しの際はぜひおたずね下さい。



■東山魁夷館

〒380-0801 長野県長野市箱清水1-4-4 (善光寺東隣)

開館時間 9:00~17:00 (入場は16:30まで)

休館日 毎週水曜日、年末年始(12/28~1/3)

観覧料 一般500円、大学生400円、高校生以下無料

Tel 026-232-0052



プロフィール/長野県長野市在住。長野と東京を中心に年間150本くらいの展覧会に足を運んでいます。2018年まで約9年間、地元の美術館のモニターとなり、美術館関係者の方と意見交換する機会をいただきました。美術は専門外でしたが大いに刺激を受け勉強しました。2018年1級取得。

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