学ぶことは裏切らない。(中村宏美さん)
- bijutsukenteiweb
- 7月24日
- 読了時間: 8分
更新日:7月24日
中村宏美さん
2009年度1級合格
2010年アートナビゲーター認定

勉強には目標が大事。
学んだ証もほしい
――中村さんが「美術検定」を受験しようと思ったきっかけを教えてください。
中村 実は「美術検定」 受験より前に通信教育の芸術⼤学で美術史を勉強していました。卒業までに6年かかりましたが(笑)。同じ勉強するなら勉強したよという「証」が欲しいじゃないですか。それで、 ⼤学を卒業した年に 「アートナビゲーター検定」時代の3級を受験しました。
――服飾デザインの会社を経営する中村さんは、お仕事も非常に多忙だったと思いますが、大学、美術検定と勉強を続けられたモチベーションはなんでしたか?
中村 目標をたてて学ぶことです。何事もそうですが、漫然と学ぶより目標があった方が効率的に勉強できると思います。「美術検定」に合格することは、美術史を学ぶうえで周りに「勉強したよ!」と差し出せる客観的な評価獲得の手段だと考えていました。
「美術検定」は何を学べばよいか
即座にわかる学習システムだった
――大学で美術史を学ばれた中村さんにとって、美術検定の2、3級は難関ではなかったと思います。それでも勉強方法で工夫されたことはありますか?
中村 大学は専門の時代に焦点をあてるので、「美術検定」のように西洋美術史と日本美術史の通史となると、抜けているジャンルだらけ。もう「ギリシャってどこ?」みたいな感じだったから、2級は1度試験に落ちました(笑)。でもこの「試験に落ちた」ことは、とってもよくってですね。何が間違っていたのか、何を知らないのかって教えてくれるし、次までにそこを勉強すればいいとわかる。苦手分野を埋めるために問題集の解説や書籍で、また、机上の勉強だけでなく美術館(美術館の図書館)にこもって、ひたすら勉強をしました。今思えば、「美術検定」ほどわかりやすい学習システムの検定はないと思いますよ。
――試験に落ちて不得意領域がわかる、というのはほかの検定試験でも同じではないでしょうか?
中村 例えば語学検定で「前置詞」の問題が出題されたとします。その時はどの選択肢か迷っても、後で正解はわかる。でも、「何を勉強すれば、次回は必ず正解できるのか」はわからないんですよ。ところが「美術検定」は問題を見たら、何が問われているのかわかる。「この作品の作者は誰か」「この作品はどの芸術運動に分類されているか」など、ファクトベースで知識を確認する問題が多く出題されていますよね。ですから、解けなかった問題は、自分の中の空白地帯だとわかります。そこを埋めるとちゃんと成績が伸びるんです。親切な設計の検定でしょ?
――美術検定は試験も学びの一環として設計しているところがあります。そのように活用してくださるとうれしいです。
勉強は裏切らない。
知識は盗まれない。増えていくだけ
中村 少し話はズレますが、「試験に落ちる」経験は大人にはとてもいいと思います。30代、40代、50代になると、どんどん人から叱られることってなくなるでしょう? 客観的にきっちり「不合格です」と言われることはとても大事だと私は思います。
そして、もう1つ大切なのは、1つ合格したらさらに上の級を目指すこと。3級に受かれば2級に挑戦したくなる。自分はここまでって諦めないこと。学習を継続させるモチベーションには目標設定が本当に大切です。そうやって積み上げた勉強は決して「裏切らない」んです。
――勉強は「裏切らない」ですか。
中村 私は会社を経営しています。事業や会社経営というのはいろいろな人たちの思惑や世情も絡むもので、投資や努力ではどうしようもないことにたくさんぶつかるんです。でも、勉強はやったらやった分だけ身につく。自分の味方になる。そういう意味で、勉強は裏切りません。コツコツと積み上げた知識は盗まれないし、増えていくだけです。
今は、暗記は学習方法としてあまり重視されなくなりましたが、それでも基本的な知識は大切ですよ。「美術検定」でも知識を活用する問題はありますし、知識は作品の鑑賞を深める手助けをしてくれます。
「アートナビゲーター」は
全方位でアートと人をつなぐ
――美術の学びやアートナビゲーターの資格はどのように活かされましたか?
中村 まずは東京オペラシティアートギャラリーや国立西洋美術館、森美術館などでのボランティア活動から始めました。これは仕事以外で夢中になれることの発見だったんです。その後、仕事として美術史の講師や美術作品の解説をするようになり、繊維業界新聞で美術コラムの執筆も依頼されるようになりました。
――現在、アートナビゲーターとしてどのような活動されていますか?
中村 以前から講座や展覧会ツアーなどを楽しむアートサロンを主宰していたのですが、コロナ禍を機に、本格的に自社事業の1つとしてアート部門を組み込んだんです。そこでは、サロン運営のほか、旅行会社や自社企画のツアーに同行するアート解説、学習センターなどでの美術史・鑑賞のための講座を企画し、講師も務めています。また、インバウンド向けに日本美術のツアーガイド業などを展開しています。
――事業化のきっかけはコロナ禍でしたか。
中村 そうなんです。コロナ禍でアートサロンが開催できなくるは、本業の服飾の仕事もコロナ禍で業界が難しい局面を迎えるはで、どうしようかと(笑)。そんな時に、サロンのお客様たちからオンラインでいいから講座をやってほしい、というありがたいリクエストをいただいたんです。「いっちょやるか!」、とZoomの操作やオンライン決済の方法から勉強しました。

――今のお話にも通じるところがありそうですが、アートナビゲーターとしてお仕事をされるうえで、気をつけていることはありますか。
中村 3つあります。1つ目はその講座やツアーで必ず持ち帰っていただく「落としどころ」を準備しておくこと。これは参加者のみなさんが「何を求めていらっしゃるのか」を検討することです。美術史を系統立てて聞きたいのか、知らない分野や作家の知識を得たいのか、きれいな作品をみたいのか……など、参加者の意向はさまざまです。事前にターゲットをできるだけ詳細につかんでおくのが重要だと思います。次に、「鑑賞者の状態に合った配慮」ですね。平日の昼間はご高齢の参加者が多いため、気持ちよく参加していただくために、「音」「気候」「衛生」面などに気を配ることが大切だと考えています。最後は、参加者の「安全」に努めることです。ツアーの場合はツアーコンダクターの方と協力しますし、美術館では館のスタッフとのコミュニケーションも必要になると思います。
アートナビゲーターは「人と関わる」ことが大前提です。参加者が気持ちよく参加し、満足して帰っていただくため、アートに関することはもちろん、実施環境や安全性、関わる人たちなど、アートナビゲーターには全方位の配慮が必要だと私は考えているんです。
美術史は未来のために学ぶもの
暮らしの中の「美」を発見する学び
――「美術を学ぶ」ことは、中村さんにとってどんな意義がありますか?
中村 過去と現在を見つめて、解釈がどう更新されるのだろうと未来を予測する楽しさを与えてくれること。そして、美術作品を知ることで、日常の中に「美しさ」を発見していくこと。ふと見た景色が「クールベの木だ」「モネの絵みたい」と思うことはありませんか? それは自分がクールベやモネが描いた自然を知っているからなんですよ。ピエール・ロベールの作品を知っていたら廃墟に憧れることもあるでしょう。実際の廃墟は汚い場所って知っていてもね。もう目にアートのフィルターがかかっている(笑)。美術作品をフィルターにして新しく美しいものに出会えたような気がしたり、それがすごく素敵だと思ったり。今まで気づいていなかった「現実にあるものを再発見する」喜びですね。
――ああ、確かに! これも美術を学んだからこその気づきですね。
中村 ほかに、美術を「なんとなく好き」から「系統立て」考えるようになり、ほかの歴史との関連性が見えてきて、そこから音楽史や文学史をはじめ、自然に他ジャンルに興味が湧いてくるんですよね。これも意義だと思っています。
――最後に、これから美術を学ぶ方へ、アドバイスや心構えなどがありましたら教えてください。
中村 大人の学びに大切なのは「楽しく学ぶ」こと。そしてその学びを誰かに伝えて「世の中に役立つ」ことだと思うんです。美術に限らず大人の学びは自分から学ぶものですから、苦痛に感じることはしなくていい。時間も限られていますから、必要な本は買うなどお金をかけるところはかけて、楽しくやるのが一番です。そして、人に伝えることによって役立てば、学びの大きなモチベーションにもなります。
――本日はありがとうございました。
なかむら・ひろみ
株式会社中村デザインスタジオ 代表
芸術系大学を中退し、服飾系専門学校に入学。卒業後、繊維メーカーに就職、1990年代に服飾デザイン業務中心の会社を設立。
本業の傍ら京都造形大学(現京都芸術大学)で西洋美術史を学ぶ。大学卒業の同年に「美術検定」(当時のアートナビゲーター検定)3級に合格、2級合格を経て2009年に1級合格。2級合格後から美術館でのボランティアを開始。アートナビゲーターとして、美術検定対策講座や美術史・美術講座の講師、美術ツアーガイドなどを務める。自身でもアートサロンを主宰し、リピーターを多く抱えている。2020年よりアート事業を社内で取り組み、アートナビゲーターのほかアートに関する企画提案を積極的に行っている。


コメント