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更新される美術史、アートのわからなさを面白がり続ける(深津優希さん)


深津優希さん(会社員)

2008年度1級合格

2009年アートナビゲーター認定




作品イラストを描いて

覚えた受験勉強


――深津さんが美術検定を受験して、アートナビゲーターになられたのはいつでしたか?


深津 3級が2006年で、まだ「アートナビゲーター検定試験」の時代でした。翌年から「美術検定」になって2級を受けました。1級合格は2008年ですね。


――なんと!20年前なんですね。深津さんは過去に学芸員として美術館にお勤めでしたよね。どのようなきっかけで「アートナビゲーター検定」を受けようと思ったのですか?


深津 美術館退職後、ほかの館で鑑賞ボランティアをしていたんです。その仲間たちに参加した理由を尋ねたら「検定のメーリングリストで募集してたから」と口々に言われて。そんなに便利なものがあるなら、と3級を受けたんです。そしたらすごく難しくて。選択式なのでなんとか合格しましたが、2級以降は本腰を入れ、外部のスクールに通って真剣に勉強しました。1年くらい通って2級、さらに翌年1級。


――浪人なしとはすごい! 当時は会場試験で、1級の論文も制限時間が短い設定でした。


深津 私は1級が一番楽しかったです。覚えることから解放されて、好きなように書いていいよって。問題も、ワークショップを考えてください、教育普及のイベントは誰をターゲットにどういう内容がいいですかのような、ワクワクで書くイメージでした。困ったことは漢字が出てこないとか、手書きに慣れていなくて大変だったこととか(笑)。


――今、暗記から解放されたというお話がありましたが、2級までの知識を確認する試験に向かって、どのように勉強されましたか?


深津 2級対策では、美術史講座に通って通史を作品とともに学びました。作家名と作品名だけがズラ〜っと並んだハンドアウトをもらって、ひたすら作品のスライドを見るのですが、忘れちゃうのでどんな作品かイラストでメモしていったんです。イラストとは言っても、とにかく特徴がわかるだけの、簡単なものです。例えば座り方の特徴や、抱き合っている様子とか、そうした仏像の違いを覚えるためのものを描いていました。



「アートカード」で

“苦手”を“楽しい”に変換できた


――今までアートナビゲーターとしてどのような活動をされていますか?


深津 カルチャーセンターでのアート鑑賞の講師のほか、複数の美術館でボランティアをやりました。現在はSOMPO美術館、東京国立近代美術館で対話型鑑賞のナビゲーターを務めています。


――ボランティア歴は長いですよね。


深津 来館者のみなさんと一緒に作品をみることが一番好きなんです。ボランティア歴では、一番長いのがSOMPO美術館で2010年から、東京国立近代美術館は2011年からで最古参になっちゃいました(笑)。本物の作品の前でお客様とお話をしながら鑑賞を深めるのが本当に楽しくて。


――そんなに! ほかに鑑賞イベントの主宰もされていますよね?


深津 不定期ですが、ボランティアで知り合った仲間とと鑑賞イベント「アートの窓」を開いています。こちらは自分たちの興味があるテーマを扱います。カフェで作品や実物をみて、参加者とともに語り、食事やスイーツを楽しむという趣向です。


――やはりこちらでも対話を大切になさっているのですね。


深津 私、もともとは人前で話すのが苦手なんです。講師やナビゲーターとして話すことは、年齢とともにだんだん恥ずかしくなくなってきましたけれども、以前は心臓の動きがまわりから見えるんじゃないかっていうくらい恥ずかしがりやで。今は人と一緒に作品をみて話すのが何より楽しい。ナビゲーターをすることで、自分自身がすごく変わったと思います。




――変わられた具体的なきっかけはあるのでしょうか? それとも経験からですか?


深津 大きかったのは鑑賞ツールとして「アートカード」*を取り入れたことです。講師を始めた頃は一方的に話す講座が多かったのですが、受講生のアイスブレイクとして「アートカード」を使うようになったんです。すると、参加者との交流をしながら、自分のアイスブレイクにもなっていることに気づきました。

「アートカード」は双方向性が高いツールなので、すぐに場を参加型に変えることができます。カードを媒介に、みなさん勝手にしゃべったり、私もそこに加わってお話をしたりして自分も‘楽しんで’アイスブレクをする。参加者との距離も縮まりますし、参加者の表情が豊かに変化するんです。そこから登壇が嫌じゃなくなりました。


*アートカード=はがき程度の大きさで片面に異なるアート作品の画像が印刷されたカードが集まったものが一般的。複数の美術館が所蔵品を印刷した館独自の「アートカード」を制作し、学校などに貸し出している。特定の美術館に限らない「アートカード」もある。



鑑賞教育の過渡期に得た

対話の意味と環境づくりの重要性


――ちなみに、美術館でガイドされる時も「アートカード」を使われるのですか?


深津 美術館と学校が一緒に行う鑑賞授業だと結構使いますよ。例えば美術館に行く前の事前授業で、その時展示している作品のポストカードを使って、作品への興味を引き出したりします。

そう言えば、私がボランティアを始めた頃は、先生がたも鑑賞の授業に慣れていない様子で、授業の司会を丸投げされたこともありました。それでボランティアたちが分科会で検討し、美術館スタッフを通して、先生にアートカードの使い方などを提案したりして。今は先生が授業案を作ってくださるので、私たちは子どもたちに寄り添って声がけするだけみたいなことが増えたかな。時代が変わりましたね。


――学習指導要領に鑑賞授業が加わって20年は経ちましたものね。


深津 面白い時期に参加できたのかな。鑑賞授業に関しては、現場経験はボランティアの方があったんですよね。いろいろな先生の授業で、何が起こるかわからない現場ですから、臨機応変にやっては反省会で話し合うことの積み重ねでした。



――講師やボランティアとして経験を積んで来られた深津さんは、アートナビゲーターとして大切にしていることはどんなことでしょう?


深津 どういうことをやれば、鑑賞者に「アートへの扉を開くこと」になるのか。これをいつも考えています。例えば、今はYouTubeでも美術鑑賞についてさまざまな方が動画をアップしていて、すごく専門的なことをずっとしゃべっている人とか、本当にたくさんのスタイルがあるでしょう。私の場合は活動する美術館が対話を通して鑑賞するスタイルなので、常に「アートってよくわかんないな」と思っている人に向けて、扉を開いていくことが基本にあると思います。私が前に立って一方的に話すのを聞いてもらうのではなく、みんなで話しながら作品をみる。動画配信や文章だと視聴者や読者はその場にいませんが、同じ気持ちで臨んでいます。


――深津さんには「美術検定」公式サイトで「CINEMAウォッチ」という連載を担当していただいていますが、「あなたはどう?」と、読者は語りかけられている気分になれる文章ですよね。


深津 質問を投げかける時も、「何でも言っていいんだ」と思えるような場づくりをする、時には自分からアホなことを言って、こんなことでも言っていいんだみたいな空気づくりを大切にしています。ちょっと思い浮かんだことも口に出して欲しいのですが、知らない人の前だと抵抗があったり、大人はカッコつけたかったり、「口を開くのはちょっとやめておこう」となりがちじゃないですか。

私から「教えて、教えて」という姿勢を表すことが、大人も子どもも「いいよ、じゃあ」と口を開きやすくするなと思います。実のところは、聞いてもらえると嬉しかったりしますよね。参加者との距離感もグッと詰まります。これはいいテクニックかも(笑)。


――だれもが萎縮せずに発言できる雰囲気をつくる。これが、深津さんが大切になさっていることなんですね。



終わりがない美術史を

面白がり続ける


――もともと美術が好きだった方には難しい質問だと思いますが、深津さんにとってアートや美術史を学ぶ意義はなんでしょう?


深津 う〜ん、アートの意義は脇に置いておいて、面白さを話しても?

昔の作品をみて「今も変わらないな」と思うことがよくあります。この、現代につながっていることが意外に多いことが、アートを面白く感じることかな。例えば現代アートの大規模な作品は、作品によってはアシスタントがつくっていて作家先生はあんまり動いていないと言われる場合ってあるじゃないですか。いやいや、昔も工房で制作していてね……と思いますし、今も昔も変わらない仕組みや人の営みをいろいろな面から感じるんです。それが面白いなって。


――それは経験も含め、知見が広がっているからこそ過去の美術と現代アートの共通性がスコンとつながるのでしょうね。学び続けているからこそ、改めて理解する、再発見する面白さを美術史に感じていらっしゃるように聞こえます。


深津 美術史を俯瞰すると、当時は結構批判を受けたりやらかしちゃったりしたことが意外に残っているなと思うんです。そう考えると、今、私が生きている時代に出てくる、「意味がわからないもの、不思議な表現」を楽しまない手はない! 

だから、受講生の方や鑑賞者に「現代アートは苦手」って言われると、今は安心できるキレイな絵にみえる印象派の絵も、当時は「腐乱死体みたいだ」とか、けちょんけちょんに言われたんだよって伝えます。それが最先端で今につながっているって。そうすると興味を持ってもらえることも多いです。



「わからない」を楽しむ。

これがアートの醍醐味


――そういう考え方ができるようになるのも美術史を学ぶ意味かもしれませんね。そうなると、100年後、どの現代アート作品が教科書に掲載されているか想像するのも面白そう。


深津 ちょっと大きなクイズとして頭のすみに置いておくのはありかも。そうやって受け継がれるものもあれば、再発見されるものもありますよね。最近は今まで埋もれていた女性作家が次々に主流として扱われ始めました。

それから、研究者の新発見で何かが起きた年代や作品の制作年が変わったり、ムーブメントにも更新がかかったりします。「え〜っ、せっかく覚えたのに!」と思う反面、美術史が完成したものではなくて、「更新されていくもの」だから面白い、と思うんです。私のアートへの向き合い方は、作品をみて「いい」と感じることだけでなく、美術史をずっと面白がり続けている感覚かな。


――美術史を面白がり続けるアートナビゲーター(笑)。


深津 同じ作品を何度もみるうちに、自分が更新されることがあります。例えば大学時代に初めてみたマネの《オランピア》。授業でたくさんのヌード作品を見せられた後に、この作品は「スキャンダラスで」とか言われるわけですよ。私は「なんで?」と全然ピンと来なくて。「生身の人間を描いてはいけなかったから」という理由を教わっても、釈然としない。もっと生々しい表現があるし、今更?って。その後、同作を何度もみたり、同時代のほかの作品をみたり、文献をたくさん読み、自分も年齢を重ねて社会の仕組みや人の営みが見えてくる。すると、作品が描かれた文脈やその絵に込められた思いが次第に浮かび上がってくる。当時の人はこの絵に描かれているモデルの生業や表現ルールを知っていたことがだんだん読み込めるようになって、《オランピア》がなぜスキャンダルになったのか、腹落ちした。

同じ作品を何年も見続けることで、不思議だったことが徐々にわかってくることがあるんです。


――同感です。


深津 作品と出会って「わからない」とみるのをやめるのではなくて、今はちょっと頭のすみに置いとこう、でいいかなって。それより、ときどきその「わからない」を取り出して検証すると面白いと思います。これがアートの醍醐味かな。


――本日はありがとうございました。




ふかつ・ゆうき
アートナビゲーター、「アートの窓」主宰者。会社に勤務しながら、アートナビゲーターとして鑑賞講師、美術館ボランティアを務めている。「美術検定」公式サイトでは連載「CINEMAウォッチ」の執筆を担当。大学時代には19世紀のデコラティブ・アートを研究し、映画サークルで映画制作に携わり、写真にも興味を持っていた。大学卒業後、短期留学を経て、美術館に学芸員として勤務。退職後に東京オペラシティアートギャラリーで美術館ボランティアをスタートし、対話型鑑賞に出会った。
*アートの窓
https://www.instagram.com/art_window_project/
*アートのにおいのするほうへ
http://wordpress.snifftheart.wordpress.com/


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