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おススメBOOK 100年前の先生に学ぼう!

 こんにちは、アートナビゲーター鈴木です。

年の始めに、ワクワクと心躍らせながら手帳に記入したいくつもの美術展のスケジュール。それが次々と「延期」「中止」になり、アートと親しく接することのできていた日常がいかに豊かなものだったのか…と思う日々。

 でも今、国内はもちろん、世界中の美術館、博物館そしてアーティスト、アートファンがさまざまに工夫を凝らした情報をSNSで発信しています。そこから新しいかたちのアートの楽しみ方もひろがってきましたね。

 そんな21世紀にあえて私がおススメするのは、100年前のアートスクールの授業です!

『アート・スピリット』 ロバート・ヘンライ 著/野中邦子 訳  図書刊行社 2500円+税



 ロバート・ヘンライ(1865~1925年)はアメリカの画家であり教師。この本は、


「あらゆる人間のなかに芸術家がいる」


と熱く語るヘンライの講義を受けていた教え子のノートや記憶、彼から生徒への手紙などが元となっています。そして「アートバイブル」とも言われながら読み続けられ、ディヴィット・リンチやキース・へリングも愛読したとか!

 ページを開く時には、ぜひ自分の好きな絵画作品を2つ3つ思い浮かべながら(できれば人物画がいいでしょう。ルノワール?レンブラント?ティツィアーノ?マネ?)、または自分が画学生としてキャンバスに向かっている気持ちで読み進めてください。アートスクールの雰囲気そのままにアトランダムな構成になっているので、どのページからも読み始めることができます。

 今まで自分にはなかった視点・作品鑑賞のヒントが、100年前の授業からきっと見つかるでしょう。

 ヘンライが生きたのは、1900年という世紀の変わり目をはさみ、科学技術や近代化の象徴であるパリ万国博覧会(1889年)、史上初の世界大戦(1914~1918年)、クリムト、エゴン・シーレも犠牲となり世界中で数千万人の死者を出したスペイン風邪大流行(1918~1920年)…と、芸術家たちにも大きな影響を及ぼす動きのあった時代でした。急速な社会の変化に対する不安や反発、芸術における科学的知識の重要性…

 このような時代に、印象主義や象徴主義はじめ、その後に続くフォーヴィスム、ダダと、次々と自由で新しい表現が生まれたのはご存知のとおりです。

 彼はカリスマ教師というだけでなく、毎年のように大好きな海外旅行に出かけ、ヨーロッパの画家たちの動向や作品をいち早くアメリカに持ち帰る、という功績もありました。

 国内でも、アカデミズムに対抗し「街に出て社会に目を向けよう」と勧めたり、無審査・自由出品のアンデパンダン展を企画するなど、若い芸術家を励ましました。

 本編の後に掲載されている滝本誠氏による「解説」は、こうしたヘンライのエピソードとともに、この時代のアート界についても知ることができる興味深い内容でおススメです。

「芸術には、時の流れの始まりもなければ終わりもない。そこには、すべての時がある。」


 思いもかけない混乱の中にいる「今」の私たちに、ヘンライの100年前の声が教えてくれるものは一体なんでしょうか?ぜひ、この「今」読んでいただきたい一冊です。

プロフィール/2005年に1級を取得。現在は東京都現代美術館でガイドスタッフとして活動中。ですが、休館中でさびしい限り…美術館でのギャラリーツアーが再開し、みなさんと一緒に展覧会を楽しむ日を待ち遠しく思っています。

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