あけまして、おめでとうございます。アートナビゲーターの深津優希です。暗いニュースも多いですが、どうか良い年になりますように。さて、2025年最初の一本は、『オークション〜盗まれたエゴン・シーレ』(2025/1/10(金)よりロードショー)です。シーレの名画が発見された実話をきっかけにし、様々な登場人物の物語を絡み合わせて作られたストーリーは、人の言葉の真意を読むミステリーのようでもあります。
始まりはいつも...
ひょんなことから発見された名画がオークションで高値落札されるまでのストーリーは、いつもハラハラドキドキさせてくれますね。『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』などこれまで紹介した映画の中にもそんな場面が見られました。今回紹介する映画『オークション〜盗まれたエゴン・シーレ』では、タイトルの通りオーストリアの画家エゴン・シーレ(1890年〜1918年)の作品が、物語の中でハラハラドキドキの種になっていきます。この絵が見つかったのは、工場の夜勤労働者マルタンが母親と二人で暮らす家。何気なく飾られていた一枚の絵画が、実は有名画家による作品なのではないかと気が付くところから話は展開します。鑑定依頼を受け取ったオークショニアのアンドレは、どうせ偽物だろうと思いつつマルタンの家へ向かうのでしたが...。
エゴン・シーレってどんな画家?
新型コロナ蔓延の中で、ほぼ100年前に大流行したスペインかぜで亡くなった著名人の話を見聞きする機会がちょくちょくありました。エゴン・シーレもその一人です。若きシーレはウィーン美術アカデミーに合格するも、入ってみるとその保守的な内容に落胆し、グスタフ・クリムトらのウィーン分離派や、表現主義、象徴主義といった当時の前衛的なアートに影響を受けて自らの表現を探っていきます。よく知られているのは、赤裸々に描かれたヌードや、自画像などの作品でしょうか。しかし映画に登場するのは人物画ではなく、ひまわりを描いた静物画です。
ナチスによる美術品略奪
調査が進むうちに、マルタンの家の元の家主が過去にナチスへ協力したことへの報酬として受け取った絵画であることが判明します。ナチスは正当な所有者ではなく、そもそも略奪品であること、そして元々の持ち主の遺族がアメリカにいることまでがわかってきます。ナチスによる美術品略奪が絡むストーリーは、CINEMAウォッチで紹介した『ミケランジェロ・プロジェクト』『黄金のアデーレ 名画の帰還』などにもみられましたし、時折ニュース(例としてBBCの2023年の記事)でも取り上げられており、まだまだ返還されずに行方不明となっている作品が多くあることを思い知らされます。
登場人物それぞれのかかえるもの
まずは問題の絵画を見つけたマルタンですが、正義感もあり真面目で思いやりのある彼には、いつもつるんでいる友人たちがいます。しかし絵に価値があると知ってからどうも関係がギクシャクしています。オークショニアのアンドレは高級車やスーツや腕時計などで身を固め、絵を高く売るためならなんでもすると言うような、少々、いやなかなかに鼻持ちならない男です。強がってはいますが繊細で、元妻で相棒のベルティナに支えられています。アンドレの部下、研修生のオロールは、個人的なことを聞かれるとつい嘘をつく癖があり、どうも家族との付き合いに悩みがあるようです。登場人物それぞれ問題にどう折り合いをつけるのか、そこもこの映画の見どころの一つとなっています。
一筋縄で行かないような登場人物さえ、最後には応援したくなります。どうぞ劇場で、シーレの作品が巻き起こす人間ドラマをお楽しみください!
『オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ』
2025年1月10日(金)より Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 ほか全国ロードショー!
©2023-SBS PRODUCTIONS
監督・脚本・翻案・台詞:パスカル・ボニゼール 『華麗なるアリバイ』
出演:アレックス・リュッツ、レア・ドリュッケール、ノラ・アムザウィ、ルイーズ・シュヴィヨット
原題:Le Tableau volé /2023年/フランス映画/フランス語・英語・ドイツ語/91分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ/ユニフランス
配給:オープンセサミ、フルモテルモ 配給協力:コピアポア・フィルム
公式HP:http://auction-movie.com
プロフィール/美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。コロナ禍ではオンラインの鑑賞プログラムや、動画による作品紹介なども。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。
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