CINEMAウォッチ「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」

みなさんこんにちは、アートナビゲーターの深津優希です。

今回ご紹介する映画は、2021年11月26日より公開の「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」です。アートに関わる様々な立場・職業の人たちが登場するドキュメンタリーはわたしの大好物なのですが、それに加えて「事実は小説より奇なり」という言葉がぴったりなミステリー・ノンフィクションとくれば、これはもう間違いありません。



一枚の絵が全世界の注目の的に

一般家庭の壁にかかっていた、一枚の古い絵。老舗オークションハウスは取り扱いを断ったこの作品を、一人の美術商が購入したのが事の始まりでした。これはレオナルド・ダ・ヴィンチの失われた名作《サルバトール・ムンディ》(世界の救世主、通称 男性版モナ・リザ)ではないか、と。真作か贋作か? 真作であってもダ・ヴィンチ作というより工房作なのでは? ここで判断を誤ると組織や肩書きやキャリアに傷がつくため、関わることに二の足を踏む人たちもいます。一方で、ダ・ヴィンチ作品なら大ニュース!と飛びつく人たちも。



美術商、修復家、オークションハウスのスタッフ、美術館学芸員、研究者、ジャーナリスト、広告代理店、人気俳優、富豪コレクターとその代理人、各国の要人から一般人までが、騒ぎに巻き込まれ振り回されます。


アートに関わる人物見本帳

印象に残った登場人物の動きに沿って、あらすじを紹介します。


《サルバトール・ムンディ》の発⾒者である美術商ロバート・サイモンは、ダ・ヴィンチ作品を取り扱うという夢のような事態に心が踊ったことでしょう。この時の購入価格は13万円。本物なら破格、偽物なら勉強代でしょうか。綺麗に修復しすぎたことを、ヨーロッパの専門家には批判されてしまいましたが...。


ナショナル・ギャラリー学芸員ルーク・サイソンは、まだ評価の定まらない絵を展覧会に出品! このお祭り騒ぎについ乗ってしまったのでしょうか。大衆に判断を投げるという、専門家としては無責任な発言をしています。


美術史家マーティン・ケンプは、ダ・ヴィンチ作に間違いないと太鼓判を押したものの、後から若干不安に。早々に明言しすぎたかしら。


ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフは、代理人イブ・ブービエに《サルバトール・ムンディ》の購入を任せ、予算はここまでと告げていました。代理人は予算よりもうんと安く購入したのに、富豪には予算ギリギリでなんとか購入できたと報告、差額を着服!これは詐欺なのか、ビジネスなのか?


記者のスコット・レイバーンは関係者の動きを追い、発見者の美術商サイモンがいくらで売却したかを記事にします。それを読んだロシアの富豪リボロフレフは驚愕!代理人にしてやられ、相当悔しかったのでしょう。さっさと絵を売却。


オークションを執り行ったクリスティーズは今度の売却先を公表しませんでしたが、落札価格は史上最高額510億円!!どうやらサウジアラビアの皇太子が絡んでいる模様です。しかしそれ以来、《サルバトール・ムンディ》は姿を見せていません。救世主はどこへ行ってしまったのでしょうか?



美術作品は誰のもの

当ブログでも紹介した映画「レンブラントは誰の手に」を観た時にも感じたのですが、歴史的に価値のある美術品は、人類全体の遺産といっても良いはず。ですが、実際には購入し所有する人・組織の一存で、誰も見る事のできない状態になることがあります。《サルバトール・ムンディ》も次にいつ世界の人々の前に姿を表すのか、わかりません。絵のタイトルが「世界の救世主」だけに、なんだか面白くなって何度も言いたくなりますね。救世主はいつ現れるのか!?と。


もう一人のレオナルド

映画の中で、前述のオークションのプレビューに並ぶ人々の列が登場します。部屋に入ると《サルバトール・ムンディ》に迎えられ、感動し、涙する人も。この部屋では絵の近くにカメラが仕込まれていて人々の様子を撮影しており、これがオークションのコマーシャル映像に使われました。中にはカメラの存在に気づいて、大袈裟に感動してみせた人もいたかもしれません。プレビューには、人気俳優のレオナルド・ディカプリオの姿もありました。


救世主、売り出し中(The Savior For Sale)

この映画の原題は「The Savior For Sale」、つまり「救世主、売り出し中」です。なかなか刺激的なタイトルですね。ルネサンスの三大巨匠の一人である天才ダ・ヴィンチは、美術史の本の中にいるのではなく、21世紀のマーケットやメディアを騒がせ、今日も多くの人々の心を掴んで離さない存在なのです。「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」、どうぞお見逃しなく。


◆映画公式サイト「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」

https://gaga.ne.jp/last-davinci/


◆参考(バックナンバーより)

CINEMAウォッチ「ルーブル美術館の夜 ― ダ・ヴィンチ没後500年展」https://www.bijutsukentei.com/post/20201127


CINEMAウォッチ「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-228.html


CINEMAウォッチ「レンブラントは誰の手に」

https://www.bijutsukentei.com/post/20210212



写真クレジット:©2021 Zadig Productions ©Zadig Productions - FTV



プロフィール

美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。最近では美術手帖TikTokアカウントにて動画で作品紹介も。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。




267回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示