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CINEMAウォッチ「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」

みなさんこんにちは、アートナビゲーターの深津優希です。こう暑いとお気に入りの服もなかなか着る気にならないかもしれませんが、今日はファッションの世界のお話を。



今回ご紹介する映画は、ケヴィン・マクドナルド監督による『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』(2024年9月20日公開)。まずタイトルが気になりますよね。ネットニュースを幾度となく賑わせてきたファッション・デザイナーの明暗を描いたドキュメンタリーです。



華々しいファッションの世界のガリアーノ


ジブラルタル生まれのイギリス人ジョン・ガリアーノは、セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインのモード科を首席で卒業し、自身の名を冠したブランド以外に、ジバンシィ、クリスチャン・ディオール、メゾン マルジェラなどでデザイナーとして活躍してきました。彼の手がけるショーならノーギャラでも出たいというモデルがいるほど、その才能は愛されています。映画では、経済的に苦しい若手デザイナーの時代から、ラグジュアリーメゾンのデザイナーに抜擢され、一躍時代の寵児となるまでのサクセスストーリーが描かれます。






最悪の不祥事


こうして書くと順風満帆のように見えるガリアーノですが、ドキュメンタリーでは彼の抱える闇についても描いています。ガリアーノは年間32回ものショーを抱えるほどに多忙になると、プレッシャーからアルコールに溺れていきます。また同じ頃、仕事の相棒スティーブン・ロビンソンを亡くしたことで、さらに精神的に追い詰められていきます。

そして絶頂期だった2011年2月、ガリアーノは反ユダヤ主義的暴言を吐き、その動画が拡散されます。そして、逮捕され実刑判決を受け、ブランドからは解雇されてしまうのです。「後から動画を見て自分でもゾッとした」と話すガリアーノ...。酒に酔っての出来事ということは、いわゆる本音が出てしまったようにも見えますが、真実はいかに。

 



少しでも歴史を学んだ人であれば、その発言が酔った勢いの悪ノリでは済まされないことがわかるでしょう。ここで、これまでCINEMAウォッチで紹介した映画のいくつかを振り返ってみましょう。例えば前回の『アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家』( https://www.bijutsukentei.com/post/_20240620 )や、ゲルハルト・リヒターに取材した『ある画家の数奇な運命』( https://www.bijutsukentei.com/post/20200925

)は、ドイツの芸術家たちが絶対に繰り返してはならないナチスの歴史に向き合う姿勢が見えるものでした。『ミケランジェロ・プロジェクト』や『黄金のアデーレ 名画の帰還』( http://bijutsukentei.blog40.fc2.com/blog-entry-199.html )は、ナチスによって略奪された美術品を取り戻すという実話に基づいた物語でしたよね。

 

 

今、そしてこれから。


ドキュメンタリーには、ガリアーノが心底反省しているような様子も映されています。親交のあるモデルやファッション関係者が、彼の精神的な病に理解を示し擁護したコメントをしており、総スカンを食らったわけではなさそうです。一方で、彼の発言によって深く尊厳を傷つけられた人は今も許せない気持ちを露わにしています。

2014年ガリアーノはメゾン マルジェラに電撃復帰しました。間違いを正して、やり直せる環境も大事ではあります。

今年(2024年)1月にはパリのアレクサンドル3世橋でメゾン マルジェラのショーが開催され、多くの人の感動の涙を誘いました。(参照:ジョン・ガリアーノの驚異──メゾン マルジェラの一大傑作、2024年アーティザナルコレクションとその軌跡に迫る

「世界一愚かな天才デザイナー」の、今後の言動が気になるところです。




『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー
© 2023 KGB Films JG Ltd

監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド (『モーリタニアン 黒塗りの記録』)
出演:ジョン・ガリアーノ ケイト・モス シドニー・トレダノ ナオミ・キャンベル ペネロペ・クルス シャーリーズ・セロン アナ・ウィンター エドワード・エニンフル ベルナール・アルノー
【2023年/イギリス/英語・仏語/116分/カラー/ビスタ/原題:High & Low -John Galliano】 
字幕翻訳:チオキ真理/© 2023 KGB Films JG Ltd 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ 公式HP:jg-movie.com

プロフィール/美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。コロナ禍ではオンラインの鑑賞プログラムや、動画による作品紹介なども。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。

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