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CINEMAウォッチ「アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家」

みなさんこんにちは、アートナビゲーターの深津優希です。この「CINEMAウォッチ」ではアートワールドのドキュメンタリーや、作家の人生の物語など、アートがテーマの映画を紹介しています。今回は、2024年6月21日公開予定のドキュメンタリー映画『アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家』です。「アンゼルム」って、なんでしょう?



アンゼルム・キーファーという芸術家


タイトルの「アンゼルム」というのは、1945年生まれのドイツの芸術家アンゼルム・キーファーの名前です。ヨーゼフ・ボイスに師事し、ナチス・ドイツに関する作品や、神話や宗教をテーマにした作品を制作しています。余談ですが、以前に取り上げたゲルハルト・リヒターも、ボイスの教え子でしたね。

(こちらを参照: https://www.bijutsukentei.com/post/20200925 )


映画の中に出てくるアンゼルム・キーファーの作品で、印象に残っているものをいくつかあげてみます。森の中に白いドレスがいくつも立っていて頭の部分にはそれぞれ違った形のオブジェが乗っているというもの。大天使たちの名前で呼ばれる翼のようなもの。巨大な画面に藁や金属を貼り付け、表面を火で焼いたもの。自然の中に建てられた複数のひしゃげた塔のようなもの。どうですか?見てみたくなりましたでしょうか?




キーファーは、ナチスの暗い歴史に目を背けようとする国内の世論に反して、アイデンティティに向き合い“タブーに挑戦”し続けました。そうした作品の主題などから、当初はドイツ国内よりもアメリカなど外国において受け入れられやすかったということが映画の中で語られますが、キーファーがアトリエで過ごす様子は、むしろ「のどか」と言ってもいいような感じです。ライブラリーで写真集を眺めるシーン、アルバムを眺めるシーン、巨大なアトリエの中を口笛を吹きながら自転車で移動するシーンなども印象に残っています。




 

監督ヴィム・ヴェンダースについて


お若い方もわかる話から始めますと、本作は、映画『PERFECT DAYS』を手がけたドイツの映画監督、ヴィム・ヴェンダースの新作です。第76回カンヌ国際映画祭で主演の役所広司が最優秀男優賞に輝いたことで話題になりましたね。主人公が清掃員として働きながら静かな日々を送り、ある再会をきっかけに過去に目を向けていく物語でした。


学生時代に映画研究会に一応属していた、若かりし日のわたしは、ヴェンダースの『都会のアリス』『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などのビデオをこっそり見て、みんなの話についていこうとしたものです...。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』や『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』のような、音楽やダンスのドキュメンタリーでも知られています。この機会に過去の作品も配信などで見てみてくださいね。


今回の映画は一人のアーティストを追うドキュメンタリーですが、キーファー本人の他に、彼の青年時代をキーファーの息子ダニエル・キーファーが、少年時代をヴェンダース監督の孫甥アントン・ヴェンダースが演じたシーンも登場します。作品を長回しで見せたり、作家のアトリエでの過ごし方を見せたり、展覧会の様子を見せたりと、私にとってこれまであまり馴染みのなかったキーファーという作家についてじわじわと感じることのできる内容でした。静かで美しい映像が素敵な作品です。




アートナビゲーター的におすすめしたいのは...


今回は、映画でキーファーの作品世界を味わうだけでなく、映画の公開中に実際の作品を見る機会を持てることも、おすすめのポイントです。都内で開催中の個展「Opus Magnum」(ファーガス・マカフリー東京)では、ガラスケースの作品と水彩画、計20点を見ることができます。日本での展示は1998年以来とのこと。12人が文章を寄せた大変充実した展覧会カタログも楽しみなところです。また、2025年春には世界遺産・二条城でアンゼルム・キーファーの新作による展覧会が開催予定です。

 


終戦からもうすぐ79年たちますが、一向に戦争がなくならない世界が不思議でなりません。人間は過ちから学ぶことのできる生き物だと信じたいです。映画と展覧会をあわせて見ることで、「傷ついた世界」について深く考える機会になるかもしれませんね。




映画『アンゼルム”傷ついた世界”の芸術家』

2024年6月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開。 
© 2023, Road Movies, All rights reserved.

監督:ヴィム・ヴェンダース エグゼクティブプロデューサー:ジェレミー・トーマス 
撮影:フランツ・ルスティグ ステレオグラファー:セバスチャンクレイマー  
編集:マクシーン・ゲディケ 作曲:レオナルド・キュスナー 
出演:アンゼルム・キーファー ダニエル・キーファー アントン・ヴェンダース
2023年/ドイツ/93分/1.50:1/ドイツ語・英語/原題:Anselm/カラー・B&W/5.1ch/3D&2D 
字幕:吉川美奈子 配給:アンプラグド


プロフィール/美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。コロナ禍ではオンラインの鑑賞プログラムや、動画による作品紹介なども。このブログでは、アート が題材となった映画をご紹介しています。

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