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【美術検定×ART PASS】アートナビゲーター・レポート 特別展「ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」

美術館・展覧会のトータル支援サービスを展開する「ART PASS」との連携コンテンツ第一弾。今回は「ART PASS」で公式オンラインチケットを販売中の、「ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(2021年9月18日~12月12日 東京都美術館)をアートナビゲーターの萌絵さんがレポートします。※美術検定協会は「ART PASS」の協力団体です。



ゴッホはなぜ有名なのか。


毎年のように開催されるゴッホの展覧会やテレビで放送されるゴッホ特集。

そうしたものを見る中で、もしかしたら一度は、そんな疑問を覚えたことがあるかもしれません。


1958年、日本で初めて開催された本格的な回顧展を皮切りに、ゴッホは繰り返し、日本で大々的に紹介されてきました。

事実、直近5年間に行われたゴッホの展覧会は、いずれもその年の展覧会入場者数ランキングTOP10に食い込むほどの人気ぶり。こうしたデータからも、国内でのゴッホの知名度の高さを窺い知ることができるようです。


しかしその一方で、ゴッホについて「生前、数枚しか絵が売れなかった」というお話を耳にしたことはないでしょうか。

そう、ゴッホは残念ながら、生前ほとんど評価されることはありませんでした。

10年という画業の中で、売れた油彩画は《赤い葡萄畑》などの数点のみ。こうした事実を知ると、ゴッホが今日、何故これほどの人気を集めているのか、ますます謎が深まります。





現在開催中の「ゴッホ展ーー 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」。

実はこの展示には、そんな〈ゴッホの謎〉を解く鍵が隠されていました。



今回の展示の核となるのは、オランダにあるクレラー=ミュラー美術館の所蔵品です。

そしてこの美術館、他にはないある特徴があります。



それは、世界有数のゴッホ・コレクション。


クレラー=ミュラー美術館は、90点を超える油彩画を含む約270点ものゴッホの作品を所蔵しています。これは、画家の全作品の1割強に相当する量。同じくオランダにあるファン・ゴッホ美術館に次いで、世界で2番目にゴッホの作品を所蔵する美術館なのです。


さらに驚くべきことに、このゴッホ・コレクション、ある「たった1人の女性」による個人的な収集から始まったものでした。



その女性とは、ヘレーネ・クレラー=ミュラー。


大企業の社長夫人だったヘレーネは、娘が受けていた美術史の講義をきっかけに、美術の世界に関心を抱くようになります。

美術教師ヘンク・ブレマーの講義を受け、ゴッホの魅力にいち早く気づいたヘレーネは、夫のもつ莫大な資産を糧に作品の収集を開始。やがて世界で最もゴッホを集めた個人コレクターとなりました。


さて、そんな風にゴッホに魅せられ作品の収集を始めたヘレーネですが、彼女はただ興味の赴くまま作品を買い集めたわけではありませんでした。

ヘレーネは収集のごく早い段階から、ある目標を掲げていたのです。



それは、自らのコレクションを世の中の人々と分かち合うこと。

「私の人生で最も素晴らしいと思ったものを未来の人のもとに遺したい」


そう考えたヘレーネは、いつの日か美術館を建てることを夢見て、初期から晩年に至るまでの質の高いゴッホの作品を体系的に収集するよう努めました。


そして、コレクションに込められたそうしたヘレーネの思いは、今回の「ゴッホ展」からも存分に感じとることができます。



今回の見どころの一つは、初期の素描から最晩年の傑作に至るまで、ゴッホの画業全体を余すところなく紹介している点です。


あまり知られていませんが、《ひまわり》や《星月夜》(ともに本展未出品)のようなゴッホの代表作は、彼の10年の画業の内、最後の2年半に集中的に制作されたもの。

ですから、テレビや本、映画などでよく取り上げられるのは、もっぱらこの短い期間ばかりのように思います。ゴッホほどの人気画家でも初期の画業が紹介される機会は、意外にも少ないのです。

本展は初期作品をじっくり楽しむことができる、貴重な機会と言えるでしょう。



そして今回は、こうしたデッサンに加え、《レストランの内部》(1887年)や《種まく人》(1888年)、《夜のプロヴァンスの田舎道》(1890年)など、ゴッホの転機となった名品が一堂に会します。


あたかもゴッホの入門書がそのまま美術展になったかのような、初めてゴッホ作品に触れる人にとってもわかりやすい展示となっています。



振り返れば、1958年、日本で初めてゴッホが本格的に紹介されたときも、その展示の核となったのはこのクレラー=ミュラー美術館の作品でした。


そして2021年、コロナ禍により美術展が相次いで中止となるなか、快く作品を貸出してくれたのもまたヘレーネの意志を継ぐクレラー=ミュラー美術館だったのです。


ヘレーネは生前から、ゴッホの作品を積極的に海外へ貸出してきました。

こうした普及活動が、20世紀のゴッホ作品の価値向上に貢献したことは紛れもない事実です。


このような歴史的背景を知ると、ゴッホの今日の名声は、その保管と普及に尽力したヘレーネの存在があったからこそなのだと思われてなりません。

そう、ゴッホを今日の「ゴッホ」たらしめたのは、他でもない「ヘレーネ・クレラー=ミュラー」だったのです



では、一体ゴッホの絵の何が、ヘレーネをそこまでの情熱に駆り立てたのでしょう。

その理由はきっと、この「ゴッホ展」で実際に作品を見れば、感じられるはずです。



「私は絵の中で、音楽のように何か心慰めるものを表現したい。」

かつてそう語ったゴッホの想いは、ヘレーネによって未来に繋がれ、コロナ禍にある私たちの元に確かに届けられています。


ヘレーネのコレクションはこれまでも繰り返し来日しましたが、実はコレクターである彼女に光を当てた展示は今回が初めての試みとなります。

ヘレーネの視点を通してみるゴッホの絵は、過去の展示とはまた違った感想を呼び起こすかもしれません。


世界一のゴッホ・コレクター、ヘレーネ・クレラー=ミュラー。

ぜひ会場にて彼女の導きを受けながら、ゴッホの珠玉の作品をお楽しみください。



■「ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」

展覧会公式サイト https://gogh-2021.jp


【会場】  東京都美術館 企画展示室 東京都台東区上野公園8-36

【期間】  2021年9月18日(土)~12月12日(日)

【休室日】 月曜日 ※ただし11月8日(月)、11月22日(月)、11月29日(月)は開室

【開室時間】9:30~17:30 ※金曜日は〜20:00(入室は閉室の30分前まで)

【問い合わせ】050-5541-8600(ハローダイヤル)


※本展覧会は日時予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。

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プロフィール/

東京都在住。都内でアート関係の仕事をしつつ、休日は美術館巡りに勤しんでいます。Instagramにて美術にまつわる楽しい話題を発信中。2019年、美術検定1級(アートナビゲーター)取得。

Instagramアカウント「もえの美術館巡り(@dilettante.7)」→http://www.instagram.com/dilettante.7


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