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【展覧会レポート】ヤマザキマザック美術館「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」(2023年10月27日〜2024年2月25日)


みなさん、こんにちは。愛知県在住のアートナビゲーター、尾崎一史と申します。

今回私がご紹介するのは、名古屋市にある、ヤマザキマザック美術館で現在開催中の展覧会「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」。日本のグラフィックデザインの先駆者、杉浦非水の展覧会です。ちなみに、2021年から今年にかけて各地で開催されていた巡回展「杉浦非水 時代を開くデザイン」*とはまったく別物ですので、まずその点を強調しておきます。


*「杉浦非水 時代を開くデザイン」(2021年7月〜2023年1月) たばこと塩の博物館、三重県立美術館、福岡県立美術館、静岡市美術館で開催




こちら入口。シャンデリアきれいですね。実はこれもまた、こちらの美術館の展示品、と聞いてびっくり(ドーム社のものだと聞いております)。そのあたりの話も後ほどいたしますので、頭の片隅に留めておいてください。



時代を映す非水の商業デザイン


展示は非水の初期の作品から始まります。


左:《三越呉服店 新館落成》1914年 愛媛県美術館 右:《三越呉服店 春の新柄陳列会(みつこしタイムス)》1914年


杉浦非水の画業を語る際に、まずに取り上げられるのが、おそらくこれらの作品でしょう。1908年に三越呉服店に入社した非水が始めて本格的に手掛けた三越のポスターです。これ以外にも、広報誌や通販カタログといった、三越関連のデザイン作品を多数手掛け、後に「三越の非水か、非水の三越か」と言われるほどとなりました。


三越の広報誌(当時『みつこしタイムス』『三越』『大阪の三越』と3種類刊行されていた)


活躍は三越にとどまらず、他の企業にも及びます。三越関連以外で私が紹介したいのが、やはりこの作品。



《東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通》 1927年 東京工芸繊維大学美術工芸資料館 AN.2694-01


今の東京メトロ銀座線、上野・浅草間開通のポスターです。電車好きなら絶対一度は見ているポスターでしょう。このポスターはずいぶん前から私(一応電車好き)も知っていましたが、これもまた非水の作品、と知ったときは驚いたのなんの。

もっとも、杉浦非水という人は、多才にして興味関心が多岐に渡る人物であったのか、カルピスのパッケージやヤマサ醬油のポスターのデザインも手掛けています。



左:カルピスの包装紙。右:タバコの箱のパッケージ


また、三越の広報誌以外にも、「ツーリスト」という、現在のJTBの広報誌の表紙画も、非水は制作しています。他にも、岐阜市と鉄道省(現JR)名古屋鉄道局による、長良川の鵜飼いのPRポスターも手掛けています。おそらくこの時代すでに「そうだ 京都、行こう。」的な観光宣伝活動がなされていて、旅行・観光関係のデザインの需要はかなりあったのだろう、ということもうかがい知れます。



草花の表情を繊細にとらえた『非水百花譜』


さらに非水は、こんな作品も。



『非水百花譜』より左上から時計まわりに、《しやくやく 芍薬》、《あさがほ 朝顔》、《そめゐよしの 染井吉野》、《なんてんはぎ 南天萩》



『非水百花譜』と題された木版画集所収の作品です。ボタニカルアートのような趣の作品を目にし、今年放映されていた朝ドラ『らんまん』でおなじみ日本の植物分類学の父、牧野富太郎を想像しましたね。こうした写実的な植物図譜までも描くという、非水の幅広さに驚きます。


こう見ていくと、非水先生なんとも多才で多方面でのご活躍…と言いたくもなるのですが、彼の経歴を振り返ると、これもまたある程度納得がいきます。

杉浦非水は1876(明治9)年の生まれ。画業の出発点は、東京美術学校の日本画選科。その後黒田清輝から洋画を習い、後にヨーロッパに留学。このように、身につけたことが多岐に渡ると、それがまた作品にも反映されるのでしょう。そうでなくても、制作の基本は写生で、それこそ何か見ると写生したくなるような人らしかったので、型にとらわれず、枠に収まらない作品表現になるのも、納得のいくところです。



ヤマザキマザック美術館ならではのユニークな展示


ここで、あらためて本展の特徴について語ります。


まずは多岐にわたる杉浦非水の作品をジャンルごとに紹介する構成。たいていの展覧会は年代順、例えば幼少期の習作から最晩年まで、という順序で作品が並びますが、本展は年代順ではなく、ジャンル別に章立てされています。まずはポスター作品、続いて広報誌(主に三越のもの)の表紙や装丁、さらには商品のラベルやパッケージ、図案集、そして最後に絵画作品、といった順です。


さらに、非水の作品と美術館のコレクションとが見事に調和した展示空間も本展ならではと感じました。



非水の草花の版画と植物をモチーフにしたアール・ヌーヴォーのガラス作品を並べた展示


このように、通常展示のコレクション作品に並べて、今回の展覧会用の作品を展示しています。

ヤマザキマザック美術館は、豊富なコレクションからアール・ヌーヴォーの家具類や、ガラス細工を常設展示しています(入口のシャンデリアも、こちらの美術館のコレクションのひとつ、というわけ)。非水の表紙デザインの雑誌の数々とともに、ルイス・C・ティファニーのランプスタンドが展示されているのを見ると、なんとなく当時の生活の雰囲気が伝わってくるような気がします。



左は、ガブリエル・シャネル《デイ・スーツ》。右のポスター《銀座三越 四月十日開店》には、流行のファッションに身を包む女性が描かれている。


こちらは、非水の時代に着られていたシャネルのスーツの実物。ポスターに描かれた人物の服装が注目されることはあっても、その時代の衣服が実際どのようなものであったかを直接知る機会はなかなかないものです。こうして作品に描かれた服と実物とを同時に見られる機会は貴重です。



晩年の非水について


多方面で活躍した非水ですが、1936年、還暦を機に創作活動の第一線からは身を引きます。ただ、非水の没年は1965年。89歳は当時としてはかなりのご長寿です。もしも彼が生涯現役だったら、1964年の東京五輪では、ポスターをはじめとする一連のグラフィックデザインを手掛けていたのかもしれない・・なんて想像をついついしてしまいます。

では、デザイナーとしての活動を終えた後は、何ひとつ創作をしてなかったのか、というと、決してそうではなかったようです…。例えばこちら。ごく近しい間柄の人の本の装丁を手掛けていました。



左:『浅間の表情』杉浦翠子 1937年 個人蔵 右:『財界の鬼才 福沢桃介の生涯』宮寺敏雄 1953年 個人蔵


2冊の本が並んでいますが、左の本は非水の妻で歌人の杉浦翠子の歌集。右は翠子の兄で日本の電力事業を牽引した実業家、福沢桃介の伝記です。ちなみに福沢桃介と愛人関係にあった川上貞奴は日本の女優第一号として知られる人物。非水は二人が暮らした邸宅(現文化のみち二葉館)のステンドグラスのデザインも手掛けています。そんな各界で活躍する家族や知人から得るものもきっと多かっただろうと想像します。


また、展覧会の最後には、このような絵画が展示されています。



《雨》1965年 愛媛県美術館


非水の絶筆、と伝えられる作品です。だからというわけではないのですが、この絵に彼の画業の集大成を見た、といいましょうか…。


ざっとご案内してきました。先ごろ開催の巡回展「杉浦非水 時代を開くデザイン」も良い展覧会でしたが、それとは趣の違う非水の世界を見た気がします。

見せ方変えると、同じ作家やテーマの展覧会でもここまで違う、という一例とも言えそうで、アンティークの家具や照明に囲まれて見る杉浦非水、というのもなかなかに素敵でした。


そして最後に、これを紹介します。





2018年のお中元商戦の際、三越で扱う商品の箱に、非水のデザインを施したようで、そのときの何点かが展示されています。

レトロではあるけれど、今見てもモダンでおしゃれなデザインで、こういうものを見ると、偉大な芸術は時代を超えて生き続ける、と思わずにはいられません。




「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」

会期:2023年10月27日(金)〜2024年2月25日(日)
会場:ヤマザキマザック美術館 4階展示室
開館時間:平日10時〜17時半/土日祝 10時〜17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(1月8日、2月12日は開館)、1月9日(火)、2月13日(火)、年末年始(12月29日〜1月4日)
https://www.mazak-art.com/

★ヤマザキマザック美術館は、美術検定応援館です。美術検定の合格認定証提示で一般入場料が100円引きになります。(応援館の詳細はこちら

●プロフィール

尾崎一史陶器の町&将棋の藤井聡太八冠の出身地、愛知県瀬戸市在住。2010年、美術検定1級取得。相前後して文化ジャーナリストとしての活躍を開始。コロナ禍で活動は頓挫するが、最近少しずつ活動を再開。年が明けたら、止まっていたグルメ紀行の執筆に、改めて着手する予定。 


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