こんにちは。アートナビゲーターの籔本恭明(やぶもとやすあき)です。今回ご紹介するのは、文化勲章を受章したすべての日本画家の作品を所有するという理念を持つ小林美術館です。大阪の名園・浜寺公園の傍に、素晴らしい作品をこんなにたくさん持っている美術館がある!なんて正直びっくりしました。大阪の至宝と言っていいでしょう。
南海本線「羽衣」、JR「東羽衣」から徒歩4分、紀州街道(大阪府道204号堺阪南線)に面して、「天女の住まう街」高石市羽衣に小林美術館が建っています。(駐車場があって便利です)
小林美術館は、小林英樹(こばやし えいき)館長によって設立されました。
理念は、文化勲章を受けた日本画家全員の作品を収集すること(Pursuing the Ideal!)
竹内栖鳳、東山魁夷、平山郁夫など、文化勲章受章作家40人の日本画が揃っています(Wow)
年に4季節毎に展示替えがありますので、関西圏の方には四季ごとに寄って頂きたい美術館です(Feel the Four Seasons!)
全世界の皆様には2025年の万博に行った際には寄って頂きたい美術館です(Bow)
小林館長は、塗料を扱う仕事をされる中で染料と顔料の違い・色・光の関係を学んだそうです。そして、日本画に出会い、その奥ゆかしさと艶やかさに衝撃を受けたとおっしゃっています。日本画に使われる岩絵具は、光によって見え方が違ってきます。この日本画の美しさを伝えたいという熱意から美術館を設立されたのだそうです。
日本画の微妙な色使いを鑑賞できるように、ガラスケースには入れずに展示されていることにも感謝です。こんなに素晴らしい日本画が揃っている美術館は、もっともっと広く知られなければなりません。
粋と艶
今回鑑賞したのは冬季特別展「絵になる風姿―粋と艶―」。
日本画には、時代を超えて繰り返し取り上げられるおなじみのテーマがあります。
「美しい型」、「絵になる風姿」です。例えば、富士山、四季の花、松、梅、龍、十二支、布袋、鶴、渡り鳥、女性の装いなど「絵になる姿」をテーマに素晴らしい作品が展示されていました。
片岡球子の「美女」に彼女の信念を観る
3階のエレベーターから出て最初に目に入るのが片岡球子の「美女」です。実物を見ると凄いインパクトがあります。
この絵は「東寺とゆかりのある女神像」をモチーフにしているようです。
片岡球子(1905-2008)は、「ゲテモノの画風だ」と言われて悩んだそうですが、小林古径から「ゲテモノとホンモノは紙一重」だと励まされ創作を続け、1989年に文化勲章を受賞します。これは、女性画家として上村松園、小倉遊亀(おぐらゆき)についで三人目の受章なんだそうです。
球子の絵がホンモノだと見抜いた小林古径も凄いですが、球子の信念も素晴らしいです。
球子は、1955年に50歳で小学校教師を定年退職してから絵画一筋になり、素晴らしい作品を生み出していきます。
カーネル・サンダースが、50歳を過ぎてフライドチキンを目玉商品とする「サンダース・カフェ」を再建して、62歳からケンタッキー・フライドチキンのフランチャイズで成功したこと思い出してしまいました。
継続は力なり!
球子の大胆すぎる構図と強く感情を揺さぶる激しい色使いをお楽しみください。キュビズム以上のインパクトがあるかもしれません。
川端龍子「柚子図」に、素直に運命の流れに任せる柔軟性を学ぶ
川端龍子(1885-1966)は、西洋画家になろうとアメリカに渡りますが、日本人が西洋画を描いても誰も相手にしてくれず、日本画に転向し、1959年に文化勲章を受章したそうです。球子がけなされても自分の画風を貫いたのと異なり、撤退戦略が大成功した例です。塞翁が馬ですね。
深田直城「富嶽暁景」の日本画の微妙な色使いに感動し
国井応陽「松図」に師から学ぶ姿勢に敬服する
深田直城(1861-1947)は、朝日を受け全体が輝く富士山を、金を用いて表現しました。この日本画の微妙な色使いを堪能してください。
円山派直系の国井応陽(1868-1923)は、円山応挙(1733-1795)を手本に同じ構図の作品を複数残しており、応挙の「雪松図」と同じ枝振りの松を描いているそうです。
応陽は円山派直系なので「ひそかに応挙を師とした」わけではないので“私淑”*とは言わないでしょうが、俵屋宗達が描いた「風神雷神図屏風」(京都建仁寺)は、宗達没後にこれに私淑した尾形光琳も描き、光琳没後にこれに私淑した酒井抱一も描いたことを思い出しました。
人間は、時代を超えて目標とする師を持つことは大切だと思います。ルネサンスの芸術家たちもギリシャ芸術を勉強したんですよね。
そのほか、3階には、小磯良平「白川女」、池田遙邨「三保羽衣松」、冨田渓仙「布袋図」、伊藤小坡「春粧」、堂本印象「寿松日昇」、上村松篁「春禽」など、実に素晴らしい作品が並んでいます。
*私淑(ししゅく)…直接教えを受けてはいないが、その人を模範として学ぶこと。
2階に参りましょう!
原在中「富士・龍」に年齢を超える情熱を感じる
原在中(1750-1837)は江戸時代の後期に活躍しました。この作品は在中83歳頃の作品と考えられています。この絵を見て葛飾北斎(1760-1849)89歳の最後の作品と言われる「富士越龍」*を思い出したのは僕だけではありますまい。年代から考えると北斎の「富士越龍」は、在中「富士」と「龍」の影響を受けたのかもしれません。在中の「富士」も「龍」も、年齢から来る衰えを感じさせない力強い生命力を表現しているように思います。
*葛飾北斎《富士越龍》参照:北彩館:https://hokusai-kan.com/blog/2865/
この他、二階には、中村岳陵「薫春」「観音図」「坂上田村麻呂像」、土田麦僊「鯛二蛤」、長沢芦雪「旭日梅雀図」、橋本関雪「巣鶴」、堅山南風「朝陽」、川合玉堂「白梅」、濱田台児「舞妓」、中島千波「梅花富士」など、豪華なラインナップです。
長谷川透の「勝利の龍」の迫力に圧倒される
二階には、ピックアップ・アーティストとして画家としても舞台美術家としても大活躍の長谷川透「勝利の龍」が展示されています。
写真の左側が、長谷川透の「勝利の龍」です。大迫力です。
美術ショップ「羽衣ギャラリー」で遊ぶ
1階には素敵な美術ショップが併設されています。
自分へのご褒美、ご友人へのお土産をみつけてください。
チャーミングで知的な福岡学芸員は、月に数回、14時から特別展の展示解説をされています。
「学芸員による特別展の展示解説」
2024年2月12日(月祝)、15日(木)、24日(土)、27日(火)
3月3日(日)、6日(水)
各日14時から約30分(申し込み不要)
「連続企画 文化勲章受章作家勉強会」
展示解説以外にも、「連続企画 文化勲章受章作家勉強会」も開催されています。
小林美術館でしか観られない受賞作家作品を間近で観ながら、作家の生涯や人柄、作品の特徴をわかりやすく解説していただけます。
2024年2月18日(日)14時から約30分(申し込み不要)
※日程を確認してご参加ください。
絵画喫茶「羽衣珈琲」で憩う
素晴らしい美術作品を堪能した後は、喫茶「羽衣珈琲」で、お一人様なら素敵なお庭を眺めながら、お二人様以上でお越しなら鑑賞した作品の感想を語り合いながら憩いのひとときをお過ごしください。
オススメは、珈琲と一緒に頂く泉州名物くるみ餅です(売り切れご免)。
また、美術館の近くにある、名園・浜寺公園もおすすめスポットです。
大阪府堺市西区公園町と高石市羽衣公園丁にまたがるこの公園の約4000本のクロマツは「日本の名松100選」に挙げられていて、日本庭園風のバラ園や桜並木も魅力です。ぜひこちらもお立ち寄りください。
おわりに
日本画の魅力を感じたい方は、小林美術館をオススメします。
今回、小林美術館で日本画を鑑賞して、球子の絵を観て「他人の酷評にも不動心を持とう」と信念の大事を悟り、原在中の「富士・龍」を観て「年老いても富士を越えるような気力を持とう」と勇気を頂きました。
優しい小林館長様、素敵な福岡学芸員様に心から感謝申し上げます。
おまけ
美術検定を受けるべし!
私は仕事以外には何の趣味もありませんでしたが、コロナが流行する前の2019年、当時79歳の母が「(滋賀県の)美術館に連れて行ってくれ」というので一緒に行きました。
たまたま、館内に貼ってあった「美術検定」のポスターが目にとまり、天の啓示か「受けよう」と思い立ち勉強を始めました。
2022年に1級に合格して、美術館に通うことが楽しみになりました。
検定の勉強をすることで美術が好きになりました。
昨年還暦を迎えましたが、美術鑑賞という趣味が出来て本当に良かったと思う今日この頃です。
冬季特別展「絵になる風姿 ―粋と艶―」
会期:2023年12月15日(金)〜2024年3月10日(日)
会場:小林美術館 3階・2階展示室
開館時間:平日10時〜17時/※入館受付は16時30分まで
休館日:月(祝日の場合は開館し、翌平日休館)
https://www.kobayashi-bijutsu.com/
★小林美術館は、美術検定応援館です。美術検定の合格認定証提示でポストカード1枚進呈。(応援館の詳細はこちら https://www.bijutsukentei.com/supporter)
プロフィール/やぶもとやすあき
2022年美術検定1級取得、医師、医学博士、弁護士、東海医療科学専門学校校長
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