皆さん、こんにちは。アートナビゲーターの綿貫です。アート関連のおススメ書籍を紹介する“Books on Art”。久しぶりの今回は、ルネサンスから日本美術までいろいろ取り混ぜてご紹介します。
■『小説イタリア・ルネサンス(全4巻)』 塩野七生 著 新潮文庫 1000~1200円+税
最初にご紹介するのは、代表作『ローマ人の物語』で有名な塩野七生の著書。彼女にしては珍しい小説で、16世紀イタリア・ルネサンス期ヴェネツィアの若き外交官マルコの生涯を描いた作品です。アートが直接の主題ではありませんが、ミケランジェロやラファエロが出てきたり、登場する人物像をティツィアーノの手になる肖像画をもとに描写していたりと、ルネサンス絵画の香りが随所に感じられます。マルコがフィレンツェやローマに拠点を移しながら物語が展開するので、読み進みながら、ルネサンス文化が花開いた主要都市の名高い建築物を巡るような趣向にもなっています。また、各巻の巻頭には当時を代表する巨匠たちの肖像画を主とする作品がカラーで掲載されているので、登場人物の姿を想像しながら小説の世界に入り込むことができます。
■『稀代の本屋 蔦屋重三郎』 増田晶文 著 草思社文庫 980円+税
こちらは18世紀の江戸が舞台の時代小説。蔦屋重三郎、通称「蔦重」は、山東京伝の黄表紙、喜多川歌麿の浮世絵を出版してヒットさせ、東洲斎写楽を見出したと言われる版元。今で言えば、アート&メディア・プロデューサーといったところ。吉原の洒落たガイドブックで評判を取り、狂歌本から錦絵、浮世絵まで次々に斬新な企画を世に送り出した稀代のクリエーターです。江戸っ子の性分が息づくような小気味のいいテンポで展開する物語は、ページを繰る指先の動きも軽快にしてくれます。蔦重は、現在のTSUTAYA、蔦屋書店の社名の由来の一つにもなっています。
■『13歳からのアート思考』 末永幸歩 著 ダイヤモンド社 1800円+税
続いては、中学・高校の美術の先生が書いたアートの見方の解説本。大人も13歳の頃に立ち返って、美術の面白さを素直な気持ちで体験して欲しいという著者の願いから生まれた本です。「アート思考」は最近ビジネスの世界ではやりの言葉ですが、この本にはビジネスに結びつけるような内容はありませんので気楽に読めます。主に採り上げられているのは、20世紀のアート作品6点。カンディンスキーの抽象画はどうやって見ればいいのか、デュシャンの『泉』は何が革新的なのか、ジャクソン・ポロックの絵はどうやって描かれたのか、等々。現代アートは難しくてよくわからない、という方には特におススメです。美術館で絵を見る際には、作品の横にある解説文を読み込む前に、まずは目の前の絵をじっくりと体感してみてください。
■『日本人にとって美しさとは何か』 高階秀爾 著 筑摩書房 1900円+税
最後に紹介するのは、美術史学者、美術評論家で大原美術館館長でもある高階秀爾氏の著書。西洋美術から日本絵画まで幅広くカバーする高階氏の数多くの著書は、美術を学ぶ人にとって避けては通れません。この本はタイトルの通り、日本人の美意識の本質を、ヨーロッパ絵画との違いを織り交ぜながら縦横無尽に解き明かしてくれます。俵屋宗達の絵に本阿弥光悦の書を重ねた絵と文字の共演、絵文字や散らし書きなどの文字によるアート表現、浮世絵に見られる切り捨ての美学、長谷川等伯の『松林図』を典型とする余白の美学など、平安時代から現代に至るまで日本美術に通底する美の特質を、豊富な事例とともに紹介しています。現代に生きる私たちの美意識にも受け継がれているはずの「日本人にとっての美」を巡る本の旅に出かけてみませんか。
いかがでしたでしょうか? ちなみに、本年開店5周年を迎える銀座 蔦屋書店では4月16日より「美術を学ぼうフェア」が開催されます。美術検定書籍をはじめとしたアート関連の書籍やグッズが多数並ぶだけでなく、現在通年開催中の美術検定4級オンライン試験の受験割引クーポンも入手できます。お近くにいらした際は是非足を運んでみてください。
プロフィール/神奈川県川崎市在住。社長業のかたわら、様々な形で趣味としてアートに触れています。当ブログでも紹介した、1日1点絵画を紹介するアプリ「DailyArt」には英日翻訳スタッフとして参画。週末には名画をモチーフにした陶板画の制作をやっています。
(Instagram:hiro_watanuki_tokyo → https://www.instagram.com/hiro_watanuki_tokyo/)
4月からは京都芸術大学の通信教育過程で芸術学を学びます。
2019年1月美術検定1級取得。世界遺産アカデミー認定講師。
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