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CINEMAウォッチ「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」

みなさんこんにちは、アートナビゲーターの深津優希です。突然ですが、猫はお好きですか。私は大好きです。うちにも2匹の猫がいて、毎日彼らと対話し(セリフは全部私が言います!)、彼らのかわいくかしこく面白い存在にめろめろになっています。今回ご紹介する映画では、猫を描かせたら天下一品というイギリスの画家を、ベネディクト・カンバーバッチが演じます。そう、海外ドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズとか、映画「ドクター・ストレンジ」シリーズとかでおなじみの俳優です。公開初日に見てきましたこの「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」、自信をもっておすすめします。





ヴィクトリア朝ってどんな時代?


この映画の背景は、19世紀の後半(1837~1901)に、ヴィクトリア女王の統治のもとイギリスが繁栄した時代です。中流階級が拡大し、表向きには禁欲、節制などお行儀のよい価値観が重視されました。女性の地位・権利は低く、良い相手との結婚がいかに大切であったかがわかります。主人公の姉妹たちも常に「理想の相手」について楽しそうに話しています。

そんな時代に6人兄弟の唯一の男子として生まれたのが、今日の主役ルイス・ウェイン。若き日のルイスは父を亡くしたあと、母と5人の妹たちを養うべく、家計の全責任を負って働く役目となりました。一方で、ルイスは絵をかくことはもちろん、実験や発明、ボクシングなど様々なことに関心があり、常に動き回っている青年でした。少々変わり者で、一所に勤めるよりも、自由を好みました。働き者でしたが、経済観念の乏しさや契約等の知識のなさから、損な条件で仕事をすることが多く、生活は一向に楽にはなりませんでした。


妻との出会い、そして猫との出会い


そんなある日、妹のために住み込みの家庭教師が雇われました。ルイスはこの年上の女性エミリーと恋に落ちてしまいます。当時の価値観では女性が年上ということや家庭教師と雇い主という立場の違いが問題視され、家族からも反対されますが、二人の気持ちは変わらず結婚。変わり者同士、理解しあえる相手と出会って、お金はないけど幸せな生活が始まります。

心のよりどころをみつけて、これからという時に、エミリーが末期の癌であることがわかります。限られた最後の時間を二人で過ごすうち、子猫を拾って飼い始めます。ルイスは、ピーターと名付けたその猫をモデルにして絵を何枚も描き、エミリーを喜ばせようとします。エミリーはこれを編集者に見せるべきだと勧めます。

そして「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」のクリスマス版にたっぷり150匹もの猫たちの絵が掲載されたのをきっかけに、猫の画家の大活躍が始まるのです。当時、ペットとして人気の確立した犬とは違い、猫はネズミ捕り用に家に置く程度の存在だったそうですが、その存在の愉快さを発見した画家、とも言えるかもしれませんね。





メンタル・ヘルスとサイケデリック・キャッツ


ルイスの描く猫たちは、二足歩行し、新聞を読み、お茶を飲み、ゴルフをする、擬人化された姿が特徴でした。単にかわいらしいものもあれば、猫の姿を借りて人間を風刺するようなものも。グリーティングカードや絵本、新聞や雑誌の挿絵を通して、多くの人に愛されます。エミリーの亡き後、心の安定が失われていく中で、猫を描くことで心の中でエミリーと繋がっていようとしたのでしょう。その一方で、ルイス本人が意識したかどうかはわかりませんが、猫の絵が世間に愛されたことで現実の社会とも繋がっていました。

晩年になると猫がサイケデリックな模様のように描かれるようになります。(ただし、ルイスは制作年を書いていないため、どれがどの年代に描かれたかは、明確ではないようです。)ルイスの色や模様で埋め尽くされた猫の絵は、1960年代のサイケデリックなデザインにも通じるところがあります。それが不安定な精神状態を表していると言われてきましたが、一方で父親が布地の貿易商だったことから幼い頃から、見ていた布地の模様の影響もあるのではという意見も。本当のところはどうなのでしょうか。






猫好きさんのためのチェックポイント


【その1 猫の“セリフ”】

映画の中で、猫たちが自由に動き回り「ミュー!」とか「おにゃ!」とか言うシーンがあるのですが、そこだけ猫のセリフにも字幕がついています。映画の字幕はセンスが問われます。あなたも猫たちの声に耳を傾けて「わたしをみて!」「ぴょーん!」など翻訳してみてはいかがでしょうか。私は毎日家でやっていますが(笑)


【その2 劇中の音楽】

ふと気が付くと劇中の音楽が猫のおしゃべりのようなのです。テルミン等の電子楽器の音色のようです。音楽好き、テルミン好きの方もチェックしてくださいね。


【その3 パンフレット】

猫の絵も載っているパンフレットがかわいいです。変形デザインがおしゃれだし、展覧会図録と違って気軽に買えるサイズとお値段です。鑑賞の記念にどうぞ。


【その4 展覧会も開催】

銀座ヴァニラ画廊でルイス・ウェイン展があります。併せて楽しみたいですね。

アート好き、猫好き、イギリス好き、ヴィクトリア朝好き、音楽好き、テルミン好き、カンバーバッチ好き、サイケ好き、などなど色んな方が楽しめると思います。どうぞ劇場へ足をお運びくださいニャー。



◆映画公式サイト

「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」

12月1日(木)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー


◆名画をチェック!

ルイス・ウェイン・コレクション展「Cheshire Cat」 

2022/12/21(水)~2023/1/15(日) バニラ画廊(銀座)にて開催中


写真クレジット:©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION



プロフィール/美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。コロナ禍ではオンラインの鑑賞プログラムや、動画による作品紹介なども。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。

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