みなさんこんにちは、アートナビゲーターの深津優希です。今回取り上げる映画はマルタン・ブルブロン監督による「エッフェル塔〜創造者の愛〜」。誰もが知るパリの街のシンボルであるエッフェル塔がどのように作られたのか、設計者はどんな人だったのか、史実をもとに想像を広げて描かれたエンターテイメント作品です。主人公と愛する人はめでたく結ばれるのでしょうか?
ラブストーリーと巨大な鉄塔
主人公のギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス演)は、フランスからアメリカに贈られた自由の女神の鉄骨部分を担当したことで知られていました。若い頃にわけあって一緒になれなかった女性アドリエンヌ(エマ・マッキー演)と20年以上たって偶然に再会しますが、彼女はエッフェルの旧友の妻となっていました。パリ万国博覧会の目玉としてモニュメント設計の依頼をされたエッフェルは、始めは鉄の塔のアイディアに乗り気ではなかったのに、アドリエンヌとの再会によって火がついたかのように、巨大な鉄塔の実現を決意します。鉄塔の建設もアドリエンヌへの愛も一筋縄では行きません。数々の困難を無事乗り越えられるのでしょうか!?
1889年のパリ万博
1851年のロンドン万博を皮切りに、パリ、ニューヨーク、ウィーンなどで次々に万博が開催され、新しい技術を使った製品などを世界各国から集めた展示に、多くの人が集まりました。1889年のパリ万博は、フランス革命から100年の記念でもあり、何か大きなモニュメントが求められていました。700近くの設計案の中から選ばれたのが、エッフェルの会社が出した鉄塔の案だったのです。
みんなに愛されるエッフェル塔は、何色?
19世紀には鉄という素材の研究が進み、鉄橋なども増えてきていましたが、建築には昔ながらの石のほうが向いていると考える人も多かったため、鉄で300メートルもの高さの塔を作る計画には賛否両論がありました。また、塔といえば教会のようなものがイメージされる時代に、エッフェル塔の見た目は奇抜ととらえられました。エッフェル塔を見たくないからエッフェル塔に登る、なんていう人たちもいたとか。今では人気の観光スポットですが、当時はそんな風に見られていたのですね。
これまでわたしはエッフェル塔をシルエットで識別していたようで、「何色か」ということを考えたことがありませんでした。そして今回映像の中で赤いエッフェル塔を見てハッとしました。竣工当時は赤で、その後は黄色、黄土色、赤茶色などお色直しを重ね、現在は約七年に一度メンテナンスのために塗り替えられているそうです。黄土色のような塗装をオレンジの光でライトアップすると黄金に輝くとのこと。夜のエッフェル塔を眺めに、パリへ行きたくなってきました。
美術の中のエッフェル塔
絵画の中にエッフェル塔がどのように描かれてきたかにも興味がわいてきます。
たとえば、ロベール・ドローネー(1885-1941)はエッフェル塔を繰り返し描いた画家の一人です。《エッフェル塔》(1911-1923)はキュビスム的に展開された塔が雲の中に建っており、周りにはビルや住宅が描かれています。おなじみのシルエットの全貌が見えないにも関わらず、すぐにエッフェル塔だとわかるのは、下部のアーチのおかげもあるかもしれません。
マルク・シャガール(1887-1985)の《エッフェル塔の新郎新婦》(1938-1939)では、エッフェル塔が青く塗られ、その上部は画面の外にはみ出しています。それでもやはり、すぐにエッフェル塔だとわかりますね。
ロベール・ドアノーやエリオット・アーウィットらの写真にうつるエッフェル塔も、まるで自分で見た景色かのように心に残っています。
ドアノー
アーウィット
エッフェル塔の設計者、ギュスターヴ・エッフェルの映画の話から、美術史の中のエッフェル塔の存在にまで話が広がりました。みなさんも映画を楽しんだあとは、エッフェル塔の絵や写真の中からお気に入りの一枚をぜひ探してみてくださいね。
◆映画公式サイト
「エッフェル塔〜創造者の愛〜」
3月3日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開 配給:キノフィルムズ
写真クレジット:© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films
プロフィール/美術館ガイド、ワークショップ企画、美術講座講師、執筆などを通して、アートと観る人をつなぐ活動をしています。コロナ禍ではオンラインの鑑賞プログラムや、動画による作品紹介なども。このブログでは、アートが題材となった映画をご紹介しています。
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