展覧会で学ぶ美術史①仏像って願いのカタチだったんだ〜「たたかう仏像」静嘉堂@丸の内
- bijutsukenteiweb
- 2月6日
- 読了時間: 8分
こんにちは、「美術検定」スタッフの染谷です。今回から開催中の展覧会を入り口に、美術史を少しずつひもといていく連載「展覧会で学ぶ美術史」を始めます。展覧会を楽しむヒントとして、気軽に読んでくださるとうれしいです。
1回目は、東京・丸の内にある静嘉堂文庫美術館で開催中の「たたかう仏像」を取り上げます。
展覧会のおもな見どころ
同展でフューチャーされているのは、静嘉堂が所蔵する7軀の《十二神将立像》を中心とした、「怒った顔」「武装した姿」「罰を与える最中」などの勇ましい表情や姿をもつ仏像たちです。
大きな見どころとして
●重要文化財《十二神将立像》のうち7躯が一堂に会すること
●神将像のルーツを探る展示
●多様な仏像表現から“たたかう仏像”の役割に迫る構成
が挙げられています。
さらに、彫刻、絵画、刀剣という異なるメディアで表された個性豊かな「たたかう仏像」と、像に込められた人々の祈りや願いを重ね合わせながら、鑑賞者が自由に想像を広げられる点も、同展ならではの魅力といえるでしょう。

展覧会のハイライトである十二神将像より《寅神像》と《午神像》。右の神将俑は、奈良時代以降日本で受容された唐時代の神将スタイルの1つを示すそう。獣の頭をかたどった飾りなどにも注目したい
左・中 重要文化財 浄瑠璃寺旧蔵《十二神将立像のうち 寅神像》《午神像》1228年頃(鎌倉時代)
右 《三彩神将俑》8世紀(唐時代)
所蔵・画像提供=静嘉堂蔵
このブログでは、「忿怒(ふんぬ)の相」や「武装した姿」としてつくられた仏像に、どんな願いが込められたのか、そして“たたかう”仏たちの何と向き合っていたのかを、仏像鑑賞が楽しくなる豆知識とともに、ほんの少し考えてみたいと思います。
知っていると仏像鑑賞が楽しくなる豆知識①
美術史からみた仏教
まず、多彩な仏の姿を生み出してきた仏教について、美術史の視点で簡単に振り返ってみましょう。

|図1:日本美術史と仏教 紀元前5世紀頃〜日本の鎌倉時代
画像左から
バーハットの「法輪」彫刻 紀元前2世紀頃、インド博物館、コルカタ 出典=Wikipedia
《如来立像》2-3世紀(クシャーン朝/ガンダーラ美術) 片岩、像高92.2cm、ペシャワール、東京国立博物館
《増長天立像》11-12世紀 木造・彩色、像高163.2cm、奈良国立博物館 重要文化財
《不動明王立像》11世紀(平安時代) 木造・彩色、像高165.2cm、東京国立博物館 重要文化財
出典(3点とも)=Colbase https//colbase.jp
仏教は、紀元前5世紀頃にインドで釈迦によって開かれた宗教です(図1)。釈迦はある部族の王子として生まれ、その誕生や生涯には数多くの伝説的エピソードが伝えられています。
現在では「仏教=仏像」というイメージが強いかもしれません。しかし、実は仏陀の入滅後から約500年は、偶像崇拝は行われていませんでした。仏陀の遺骨を祀ったストゥーパ(仏塔)や、そこに刻まれた法輪が信仰の象徴だったのです。
その後、時代が下るにつれて造仏が始まり、1世紀頃には現在のパキスタン北西部にあたるガンダーラ地方で仏教美術が発展します。古代ギリシアの神像表現に影響された仏教に見覚えのある方も多いのではないでしょうか。
仏教と仏像は、シルクロードを経て中国、朝鮮半島へ伝播、6世紀に日本へと伝来します。飛鳥時代には、法隆寺の《釈迦三尊像》が鞍作止利作によって制作され。続く白鳳文化の時代には薬師寺の《薬師三尊像》が生まれました。
天平文化の時代に、興福寺の《阿修羅像》のような人間味のある表情の仏像が登場します。8世紀末になると、空海や最澄らによって密教がもたらされ、「大日如来」「明王」といった新たな仏の世界が広がっていきました。この時代には一木造や木心乾漆造など新しい造仏技法が用いられています。
さらに11世紀、藤原摂関政治の最盛期には、日本では「末法の世」が信じられ、来世での救済を願う浄土信仰が広まりました。そして鎌倉時代、運慶らの活躍によって、日本の仏像彫刻はひとつの完成期を迎えたのです。
このように仏教と大きな美術史の流れをリンクして整理しておくと、展示されている仏像の特徴や見どころが実感できると思います。
知っていると鑑賞が楽しくなる豆知識②
仏界のステイタス

|図2:仏界の組織
仏の世界は、図2のように大きく4つの階層に分かれており、会社組織にたとえられることがあります。これは役割の違いをイメージで理解するための便利な考え方ですね。
最上位に位置するのが「如来」。悟りを開いた仏陀の姿を表し、釈迦如来や薬師如来、阿弥陀如来が代表的な存在です。パンチパーマ風―丸まった螺髪(らほつ)―の頭が特徴です。
次が「菩薩」。悟りを求めながらも衆生を救う存在です。王子時代の釈迦がモデルとされ、宝冠やアクセサリーを身に着けた姿で表されます。如来を補佐する役割と、人々の願いを聞き届ける役割の2面性を持つ仏です。願いによって姿を変化(へんげ)させる観音菩薩は、その代表格です。
その下に位置するのが「明王」。忿怒の表情で人々を導く、いわば叱り役の仏で、不動明王などがよく知られています。
最下層が「天」。もともとは古代インドの神々で、仏教に帰依した守護神たちです。武装した姿のものも多く、十二神将や四天王はこのグループに属します。静嘉堂の《十二神将立像》も、まさにこの「天部」の仏たちです。
たたかう仏像は、「明王」と「天」に属しているのです。
仏は、なぜ武装するのか?
観音菩薩が変化することは前述しましたが、例えば、不動明王は大日如来の化身であり、毘沙門天は33の姿に変化する観音のひとつの姿といわれています。穏やかな表情の仏が、怒りの顔で武装した姿に変化する――少し不思議ではありませんか?
同展を企画した学芸員の大沼陽太郎さんは、次のように語っています。
「穏やかな仏のままでは、戦や疫病、飢饉といった現実の苦しみに立ち向かえない、と当時の人々は考えたのかもしれません。煩悩や邪鬼を断ち切り、日常の最前線で戦ってくれる存在として、武装した仏の姿が求められたのでしょう」
こうした視点で仏像の表情やポーズを見直すと、忿怒の表情の中にも、怒りだけでなく諭すようなまなざしや思案するような気配が感じられます。そこには、仏像を願いとともに生み出した人々の数だけ、さまざまな想いが込められていたのかもしれません。

左から、迫力ある眷属像、法華経の絵解きに描かれた毘沙門天、への字に口を結ぶ午神像。同展の図録によると、眷属の立体像化や不動明王彫像への八大童子の付随は平安時代末期から鎌倉時代の風潮という
左 重要文化財《広目天眷属立像》康円作[部分] 1267年(鎌倉時代) 寄木造・彩色・玉眼、像高32.0cm
中《妙法蓮華経変相図》[部分] 11-12世紀(宋時代) 紙本墨画着色、25.8✕4292.0cm
右 重要文化財 浄瑠璃寺旧蔵《十二神将立像のうち 午神像》[部分]1228年頃(鎌倉時代) 寄木造・彩色・玉眼、像高70.3cm 撮影=筆者
3点の所蔵・左中の画像提供=静嘉堂蔵
展覧会では、例えば複数の毘沙門天像の表情や武装の違いを観察したり、変化する仏たちの姿を比較してみたりするのも興味深いでしょう。

観音菩薩と毘沙門天の関係を暗示する展示もあり
左《観世音菩薩立像》6世紀(北魏時代) 青銅鍍金、像高20.7cm 撮影=筆者
右・《兜跋毘沙門天立像》10〜11世紀(平安時代) 一木造・彩色、像高48.1cm
所蔵・右の画像提供=静嘉堂蔵
暮らしに身近な、たたかう仏像
十二神将は薬師如来に仕える守護神です。もともと干支にちなんだ「年」や「方位」を守る神とされてきましたが、近年の研究では「時」を守る神としての性格も指摘されているそうです。今でも方角の吉凶をみるのはポピュラーですし、自分の生まれた“時”の神将がつかず離れず護ってくれると信仰されていたとか。そう思うと、十二神将がより身近な存在に感じられますね。
たたかう仏像の姿は、時代ごとに少しずつ変化したり増えたりしていました。このような変化は、その時々の人々が望んだ救済のかたちがもたらしたと考えたら、人々のイマジネーションの豊かさに驚かされます。
「たたかう仏像」に込められた想いを知るとき、私たち自身が生きる現代社会とも、自然と重ね合わせて考えたくなります。今の時代にとっての“救済のかたち”とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
展覧会概要
「たたかう仏像」静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命会館1F)
会期:前期 2026年1月2日(金)〜2月8日(日)/後期 2026年2月10日(火)~3月22日(日)
開館時間:10:00~17:00(最終入場16:30)
休館日:月曜日、2月24日(火)※2月23日(月・祝)オープン
入館料:一般1500円、大高生1000円、中学生以下無料 ※障がい者手帳をお持ちの方700円(同伴者1名無料)
主催:静嘉堂文庫美術館(公益財団法人 静嘉堂)
静嘉堂文庫美術館 https://www.seikado.or.jp
静嘉堂は、三菱財閥の岩崎彌之助(第二代社長)と小彌太(第四代社長)父子によって創設され、国宝7点、重要文化財84点を含む20万冊の古典籍と6万5000点の東洋古美術を収蔵する。1977年より東京都世田谷区の静嘉堂文庫展示館で美術品の一般公開を行い、1992年に静嘉堂文庫美術館が開館。創設130周年の2022年、東京丸の内の重要文化財・明治生命会館に展示ギャラリーを移転した。
筆者プロフィール
染谷ヒロコ/美術鑑賞ファシリテーター、編集・ライター。MFA(美術学修士)
フリーランスとして美術館などでの教育普及プログラムの企画・運営、美術鑑賞ツールの開発などに携わる傍ら、美術教育・美術館をテーマにした取材などを重ねる。「美術検定」の元編集者(2007〜2025年)。手がけた書籍に「美術検定」関連書籍のほか、上野行一執筆・監修『五感をひらく10のレッスン 大人が愉しむアート鑑賞』(美術出版社、2014年:編集)、奥村高明『エグゼクティブは美術館に集う―「脳力」を覚醒する美術鑑賞』(光村図書、2015年:編集)、秋元雄史『おどろきの金沢』(講談社α新書、2017年:構成・編集協力)などがある。




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