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アートナビゲーター同士で語り合いました!オンライン・イベント「ゴッホでアートを語ろう。」レポート

 2021年はコロナ禍の影響もあり、美術検定1級を取得したアートナビゲーターが交流を深めるイベントも、オンラインで開催されています。3回目のイベントとして2021年9月29日に開催された、「アートナビゲーター同士で語ろう!オンライン・イベント」のファリシテーターを務めたアートナビゲーター・加藤誉使子が、その様子をレポートします。



 美術検定協会が事前に定めた今回のテーマは「ゴッホでアートを語ろう。」でしたが、実は裏テーマがありました。アートナビゲーターなら全員知っているであろう芸術家・ゴッホを深堀りし、ゴッホ好きな方や超詳しい方だけのマニアックな応酬になるよりも、ゴッホを語ることを通して、もう少し広い話題にも繋がっていき、誰もが楽しく参加できるような会にしたいと考えました。

 ゴッホは参加者の奥にあるものを引き出す糸口に過ぎず、ゴッホについて具体的なことを話す中で、アートについての大切な何かや気づきに結びついていくことを期待して、イベントのメニューを設定しました。 



 イベントの冒頭に、話題提供としてファシリテーター・加藤の活動実践をプレゼンテーションしました。以前美術検定ブログ「アートナビゲーターが岐阜から発信!アートを身近にする機会をつくるプログラム」でも自身の活動を紹介しましたが、私が開催している「おとなのアートレッスン」は、毎回異なる名画を鑑賞し、その技法を参考にオリジナル作品の制作を楽しむ講座です。その講座でゴッホをテーマに実施した、「ゴッホ連想ゲーム」での反応や、ゴッホの表現を紐解き、オイルパステルで作品制作をした様子などを紹介しました。


 その後はグループに分かれてのセッションです。まずはアイスブレイクとして、ゴッホから連想することをどんどん挙げてもらう「ゴッホ連想ゲーム」を提案しました。アートナビゲーターの皆さんにとってはいくらでも出てくる感じで、多くのキーワードが飛び交いました。


 ゴッホの共通認識を深めた後は、各自のゴッホ体験を語り合っていただきました。さすがに皆さんゴッホの生の作品をご覧になっていて、具体的な体験談が続出しました。自身の鑑賞体験や、アートナビゲーターとしての活動体験をはじめ、ゴッホと弟テオの往復書簡好きが高じて二人のお墓参りに行った方もいらっしゃいました。それぞれの方からしか伺うことのできない、貴重で深いお話を伺うことができた交流となりました。


 3つめのテーマ、「before & after 美術検定、ゴッホの場合」では、美術検定を受験する前と後で、ゴッホ作品への見方に変化はあるかないか、またそれはどんなところかをお話しいただきました。もちろん個々の違いはあったのですが、共通した意見が多く出たのが印象的でした。それは、「美術検定を受験する前(before)では単体で観ていた作品を、受験した後(after)では時系列で捉えるようになった」「好き嫌いで観ていたのが、美術史の流れの中で理解するようになった」などの声です。俯瞰的な捉え方へと変化したことにより、作品への理解がより深まり、鑑賞の視点にも影響があった、という意見が多くありました。


 その後、展開を変えて「お悩み相談コーナー」に突入。アートナビゲーター歴2年の相談者からメールが来ているという設定を作り、次のセッションでは、この悩みにどのようにアドバイスをされるか、皆さんに話し合ってもらいました。



■相談者からのメール(主旨を抜粋)

「アートナビゲーターであることを他の人に話すと、よく『へぇー、どんな作家が好きなんですか。』と聞かれます。私自身は現代絵画が好きなんですが、本当に好きな作家を言うと、相手は『知らない…』と微妙な空気が漂い、説明しても相手とかみ合っていないような気がして申し訳なくなります。ですから、最近ではそう聞かれた時、『ゴッホかな』と答えてしまうことが多いです。聞いた方は『あー、ゴッホなんですね』と嬉しそうにされています。私も決してゴッホを嫌いな訳ではないのですが、なんだかモヤモヤしてしまいます。コミュニケーションの一環と捉えて流せばいいのかもしれませんが、相手に対しても自分に対しても、後ろめたさのようなものを感じます。こういう時、どうやって答えるのが正解なんでしょうか。また、ナビゲーターの皆さんはどのように対処されていらっしゃるのでしょうか。」
                                                             

 この相談内容、アートナビゲーターの皆さんにとってはいわゆる「あるあるネタ」で、共感される方が多かったようでした。回答のアドバイスの一例として、


・アートナビゲーターなら、相手がその作家を知らなくてももっと正直に言っていい

・好きな作家はその時で変わる


など、具体的な作家名を念頭に置きながら考えていただいた意見や、


・「今やっている○○はいいですよね?」

・「あなたは何が好きですか?」


コミュニケーションにもっていくような展開を考えていただいた意見。また、


・ジャンルから答えて、食いついてきたところに話を合わせて伝える


といったテクニックを考えてくださった意見など、いろいろな回答例があげられ、セッションがとても盛り上がりました。ここでも多くのさまざまな意見がありましたが、どの意見も共通して、アートナビゲーターとしての視点や役割を踏まえて考え、発言されていたことがとても印象に残りました。


 その後の全体セッションでは、各グループでの内容を発表し合いました。「そうだよね~」と共感したり、「その手があったか」と膝を打ったり、「なるほど」と納得したり、ともあれアートナビゲーターとしての矜持をお持ちなのが、皆さんの発言の中からあぶり出されてきて、とても興味深く感じました。

 これは、美術検定協会から指導されている訳でもなんでもなく、ごく自然発生的なことです。美術検定をきっかけとして、あるいは美術に関わる中から、自らの楽しみのためだけではなく社会的な視点を意識し、より深い考えで美術と接し、他者に伝えていこうとしている。この姿勢がまさに“アートナビゲーター”だと思いました。


 こうして盛り上がった中にイベントは終了したのですが、参加された方の中には、美術について思う存分話が出来るような生活環境でない方もいらっしゃったと思います。ここには、「アート」を通して自由に話し合える、安心して共有できる場があります。それは単純にとても楽しい時間です。ただし、このアートナビゲーター・イベントで感じたことは、他のアートイベントとは違い、その楽しさを共通言語のある仲間だけで内側に向けて盛り上がるのではなく、それを外に広げ伝えていこうという姿勢です。これは、まさに美術検定協会が掲げる「美術と人々・社会をつなぐ」「美術をより広く普及することを目指す」姿勢に他ならないと思い、ちょっと感動しました。


 今回のオンライン・イベントを通じて、私自身じわーっと心強い気持ちが湧いてきました。次の機会でも、多くのアートナビゲーターの方々と時間を共有し学び合い、そしてまた日々の活動に向けて力を得たいと思っています。



プロフィール/

東京造形大学造形学部美術学科Ⅰ類卒業。2017年まで岐阜県高等学校美術科教諭として勤務。美術の力をおとな社会にもっと広げたいとの思いから早期退職し起業。前職の経験を生かし、フリーの美術活動家として活動中。作品制作および発表・展示プロデュース・イベント・ワークショップの開催など、美術に関わる様々な活動を、まちの中でまちづくりの一環として展開している。

 

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